「つ、つかれた~!!」

しりもちをつくようにその場に腰を下ろすメフィ。校庭で仲間たちに加わってから既に数週間が経つ。そのうっすらと汗の浮かんだ紅潮した顔には、既に病み上がりといった印象はない。傍らでその様子を見ていたナスは、カバンからミネラルウォーターのボトルを出してメフィに手渡す。

「どうです?1年生が担当してる区域も、まだ中ほどってところですけど」
「あ、ありがとうございます・・・んぐっ・・・ぷはーっ」
「はは、慌てなくても大丈夫ですよ」
「うーん、モンスター退治っていうから最初は怖かったですけど、なんとか大丈夫みたいです。でも、木刀を振り回しすぎてもう腕が上がらないですー」

仲間たちと一緒に、現在の生徒にとっては日課のようになっているモンスター退治を体験している最中であった。現在は、校舎前で小休止といったところである。

「それにしても、みんな強いですね!」
「私もですけど、ほとんどが2年生以上ですからね。と、言っても授業もなくなっているわけで、実際の年齢とか学年ってわけじゃないのですけど」
「え?どういうことですか?」
「簡単にいうと、保健の先生―この学校ではビアンカ先生ですけど―が身体チェックやそれまでの戦いぶりを見て、より危険度の高いモンスター退治を任せても安全だ、と判断すると、次の『学年』に進級させてくれるわけです」
「へえ・・・」
「進級したら、その学年の担当の区域でもモンスター退治をしたり、生徒会の手伝いの作業をすることになります。でも、もちろんそれまでの区域で活動してもいいわけです」
「戦闘に慣れて、鍛えれば活動できる範囲が広がるってことですね」

メフィは頷いた後、きょろきょろと辺りを見渡す。見慣れない楽器を身につけてダンスをしている生徒を見つけ、指をさしてナスに尋ねる。

「あちらの方も、上級生なんですかね?可愛い楽器・・・」
「進級すると、取扱いの難しい、強力な武器の使用も許可されますね。あれは『シャーマンボンゴ』といって、なかなか手に入らない貴重な武器ですよ」
「へえ、ちょっと欲しいかも・・・」
「メフィさんが2年生に上がれたら一緒に探してみましょう。今はこれで我慢かな?」

ナスは懐から山吹色の打楽器―クラリネット―を取り出して、メフィの頭部につけてやる。そのとたん、軽快なパーカッションと澄んだ音が鳴り響きはじめる。

「わぁ、素敵な音・・・」
「木刀を振り回すよりは、ずいぶん楽になるかな?それじゃ、クラリネットの慣らしも兼ねて、後半行ってみましょうか」

休憩は終わりとばかりに勢いよく立ち上がるナスと、それに続くメフィ。

「アベル、そろそろ行こうか」

傍らでストレッチをして体をほぐしている仲間にナスが声をかけると、威勢のいい返事が返ってくる。

「応っ!」
「先生も、さぁ、行こう!」
「・・・」
「先生?」
「あー、今日はだいぶ早い時間から頑張ってたみたいだからねえ・・・」

壁にもたれ座り込んで、俯いている先生を前に、ナスとアベルは苦笑を浮かべ肩をすくめる。安らかな息を立てている彼の顔を覗き込み、メフィはクスリ、と微笑んだ。

「ねちゃってる・・・のね」


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時は同じくして、薄暗い地下室のような場所に、一人の男性が佇んでいる。周囲には大型のガラス管が並び、何かの実験施設のようにも見える。ほの明かりに照らし出された彼の顔には柔和な笑みが張り付いてはいるが、その真意を伺うことは難しそうである。

「ふむ、だいぶ上が騒がしい・・・生徒に活気があるのは大変素晴らしいことですがね」

ガラス管の中には透明の液体が詰まっているようであり、何かの植物のような緑色の物体が揺らめいている。男の独り言は続く。

「元気な生徒がたくさんいれば、私の研究もはかどるというもの。ありがたいことです・・・」

「研究熱心なのは結構ですが、『計画』もすすめてもらわないと困りますねぇ」

突如、男の背後に人影が現れる。マントを羽織った猫背の男のようだ。

「フフフ・・・順調ですよ。『彼女』は『樹』とシンクロしつつあります。幼児期の精神体が乖離して暴走を始めてしまいましたけどね」
「気軽におっしゃいますねぇ。ずいぶんと楽しそうですが」
「グレイ君が以前に作った『おもちゃ』を与えてますから、暴走といっても可愛いものです。わが校には優秀な生徒もたくさんいますから大丈夫ですよ」

マントの男は、やれやれ、と肩をすくめたようだ。

「我々とは別の組織が、同じような実験を始めていますねぇ。私の学校の『樹』はすっかり彼らの勢力下です。マオ先生、あなただけが頼りなんですよぉ・・・」
「暗田君、きみの提供してくれる素材は非常に興味深いものばかりです。貴重なデータも取れますし、これからも協力していこうではありませんか」
「ククク・・・そうですねぇ、これからもよろしくお願いしますねぇ」

ひときわ大きなガラス管の中に封じ込まれた何かが、ピクリと蠢いた。

(つづく)