「ここって、思ったより広い学校なんですね!」
「そうですね、校舎も地下をあわせて4フロアありますし、裏庭や校庭も含めた敷地はずいぶん広いですよ」

翌日。裏庭の温室前のベンチに腰をかけて、休憩中のナス、そしてメフィ。体力が回復し、出歩く許可がビアンカより出たため、リハビリがてらゆっくりと構内の施設を案内している最中であった。

「ナスさん、ところで、聞きたいことがあるんですけど・・・」
「うん?なんでしょう」
「校内の何箇所かで同じようなものを見たんですが、あれって何なのでしょうか?」

メフィは少し離れた場所で陽炎(かげろう)のようにぼんやり輝いている空間を指差す。ナスはそれを見て、ああ、と頷く。

「あれは、『ゲート』と呼ばれている、空間の歪みです。『向こう側』との間を行き来することができる通路のようなものですね」
「『向こう側』!?」
「うーん、見た目はこの学校とそっくり同じ空間なんですが・・・厄介な生き物などが住んでいて、少々危険な場所です」
「でも、そのゲートに出入りしている生徒がいるようなんですけど・・・」

一人で、或いは複数で連れ立って、自らゲートに向かって駆け込んでいく生徒たちの姿が見える。その姿はゲート自体と同じように陽炎のように霞み、消える。その一方で、別の生徒たちがゲートの前に突如出現する、という奇妙な光景があった。

「向こう側の生き物―モンスターと呼んでいますが―たちは、放っておくとどんどん数が増えて、たまにゲートを通ってこちら側の世界にまで出てきていろいろ迷惑をかけるんです。だから腕に自信のある生徒たちがこちらから出向いて、それを退治するわけです」
「モンスターと戦うんですか?ナスさんも?」
「私も毎日のようにやってますよ。自分の力量にあったモンスターと戦うだけでも生徒会の役には充分たちますし、命にかかわる様な大怪我した生徒というのも今までいないそうですし」
(でも、これからは多少無茶もしなくちゃ駄目かもしれないな)

説明しながら、ナスはそんなことを考える。強いモンスターが出現するような場所は上級生に任せ、頼っていたが、自分でも戦える力を身につけるべく鍛えねばならないと。

「モンスター退治は、メフィさんが本調子になってから一緒にやってみましょう。そろそろ、別の場所も案内しますね」
「あ、は、はいっ」

ベンチから立ち上がり際、裏庭から世界樹へと続く脇道を一瞬だけ眺め、足をとめるナス。そんな彼の顔を、メフィは心配そうに覗き込む。

「あれ、ど、どうしたんですか・・・?」
「あ、ごめんなさい。たいした事じゃないんですよ。さあ、行きましょう」

校舎脇の通路から二人は校庭側に出る。きれいに刈りそろえられた芝生も目に鮮やかなグラウンド。その中央に数人の生徒が集まっているのが見えた。

「あ、いたいた。メフィさん、私の仲間を紹介しますよ!」

生徒の集団に近づいていく二人。向こうもそれに気づき、めいめいに声をかけてくる。なかでも一際目立つがっしりとした体つきの男子生徒が、二人の前に立った。

「やあ、先生、こんにちは!」
「ナス、その娘か、君が最近夢中になってる後輩ってのは!」
「夢中って・・・いろいろ縁があったから一緒にいるだけで・・・」
「はははっ、照れるなって」

メフィは、先生と呼ばれたその大柄な男性の顔を訝しげに見る。先生と呼ばれるには明らかに若く、他の生徒と同じぐらいにしか見えない。

「先生・・・?」
「ああ、そういうあだ名なんですよ。運動が得意で、自主的にダンスや体力づくりの指導をしてるんです。それでみんな先生、と呼んでいるんですよ」

慌てて説明を加えるナス。紹介された『先生』は、メフィに向かって爽やかに笑いかける。白い歯が眩しい。

「本名はやたら長いんで、略してVIPって名乗ってるけどね。別に先生、と呼んでくれていいよ!よろしく!」
「あ、こ、こちらこそよろしくお願いします。メフィって言います!」

ぺこり、とお辞儀をするメフィ。その間に、集まってきた生徒たちが次々に名乗り、彼女を取り囲んでいく。その人の輪から少し離れ、手芸部の制服をラフに着こなした一人の男子生徒が佇んでいる。ナスは彼に近寄り、声をかける。その口調は、少しくだけていた。

「やあ、どうしたんだい?」
「ナス、あの娘は一体何者だい?ありゃ普通の新入生じゃないだろう」
「いつもながらアベルの勘は鋭いね。それで何度も助けられてるんだけどさ」
「話逸らそうとしてるだろ。別にあの娘自体から悪いものは感じないさ」
「なんと説明していいものやら・・・なにせ目の前に突然出現してきたしね」
「ナス、君自身もここ数日なんか悩んでたんじゃないか?今はそうでもないようだけど」
「アベルにはかなわないなあ」
「おっと、俺もあの可愛い娘にちゃんと自己紹介しなくちゃな!」


アベルと呼ばれた生徒は、にっこりと笑顔を浮かべると、ナスの肩を軽く叩き、メフィを囲んだ人の輪に加わるべく駆けていった。

(つづく)