ナスの目の前に突如出現した少女は、彼の腕の中で再びぐったりと気を失ってしまった。彼が少女を抱きかかえ保健室に連れて行くと、保健医のビアンカが、まさに帰り支度をしているところであった。帰るところを邪魔されたことで苛立たしげに酷く汚い言葉でナスを罵倒しながらも、しかし手際のほうはてきばきと少女をベッドに寝かせ、健康チェックをしていく。結果としては、十分な休養が必要なものの、特に異常はないとのことであった。

「まあしょうがないわね。夜の間も交代が来るから引継ぎして、暫らく預かることにしましょう。持ち物を見るに、学生証、真新しい制服・・・ここの新入生のようだし」
「お帰り間際のところを、なんかすみませんでした。どうもありがとうございます」
「さっさと帰ってとっとと寝なさい。あんたまで風邪なんかひいて私の手を煩わせたらxxをxxxしてxxxxしてあげるわよ!」

よく聞き取れなかったものの危険な雰囲気を察したナスは、その場で一礼して逃げるように保健室を後にした。


数日が経った。ナスは家では何事もなかったかのように振る舞っている。双子の兄と名乗るクラの言葉を真に受けることなく、今までどおりの生活を維持しようとしている。しかしもちろん、まるで信じていないわけでもなく、その言葉はそれこそ楔のように彼の心に深く食い込んでいた。そしてあの日以来、クラからの接触は全くない。

ナスは保健室に一日に数回は顔を出し、その度にビアンカに罵られたりからかわれたりしている。少女は日ごとに回復し、日常生活を送るのに支障なし、と思えるようになっていた。少女は、自分のことをメフィと名乗った。

「ナスさん、でしたよね?あらためて、どうもありがとうございました」
「いやいや、気にしないでいいですよ。当然のことをしたまでです」
(まあ、確かにびっくりはしたけどね)
「メフィさんは、新入生ってことですよね?もう少し元気になったら、校内を案内しますよ。それから、仲間にも紹介したいですね」
「あ、ありがとうございます!週末からは寮から通えるようになりそうですから、そうなったらお願いしますね!」

クラの事は気にはかかっていたが、新しい出会い、気心の知れた仲間が増えそうな予感に家路に向かうナスの心と足取りは軽い。しかし、帰宅した彼を待っていたのは、そのクラからの長い手紙であった。

(続く)