EVP(無限放課現象)が始まってからというもの、それぞれの学校には「放課後」という概念自体がない。エスティバー学園には教員が数名残っているものの、もちろん授業ができる状態ではない。にも関わらず、多くの学生が毎朝登校し、夕方に帰宅していく。この異常の中で、生徒たちも、大人たちも、「日常」を欲しているのかも知れない。
今日も日が暮れ始め、校庭のあちこちに立っている外灯に明かりが灯り始める。秋風の予想外の冷たさに思わず身を縮めて足早に校門へ急ぐ生徒たち。その耳に、ハーモニカの音色が響く。
興味に駆られた幾人かの生徒たちは、その音の主を探しあてる。校庭横のバスケットコートへ降りる階段に腰をかけ、一心不乱に手に持ったハーモニカを奏で続ける一人の生徒。
通りすがりの生徒たちの多くは、その付近で足を思わず足を止める。その音に聞きほれているわけではない。むしろそのハーモニカの演奏はひどく拙く、何度も閊えながらどうにか曲らしきものを紡いでいるといったレベルである。それでも誰も野次の一つも発さないのは、彼がひどく深刻な面持ちで演奏し続けているからであろう。そしてその彼-ナス-は、他人から見られているということに気づいてすらいない。
(あのクラという宵月学院の生徒は、本当に私の兄なのだろうか?彼の言ったとおり、言葉よりも、実際に何か相通じるものを、彼に対して感じたのは確かだ)
ハーモニカの音が跳ぶ。
(彼の言った『楔』と『槌』の意味とは何だろう。もし私にEVPを止める力などというものがあるのなら、世界の役に立てるのではないだろうか)
一小節抜ける。
(運命に逆らう?ではEVPを止めずに何か他のことをするということなのだろうか?彼の目的とはいったい・・・)
テンポが狂う。
(彼は言うだけ言って『今日のところは宵月に戻るよ』と行ってしまった・・・これ以上ここで考えても時間の無駄、か)
演奏が突如止み、ナスは勢いよく立ち上がる。周囲は完全に暗くなり、さきほどまで様子を伺っていた他の生徒たちの姿も今はもうない。
と、突如彼の眼下のバスケットコートの中央に、まばゆい光の塊が出現する。EVP以降奇妙な現象は見慣れていた彼も、さすがに驚き、その光に注目する。光は徐々に収まり、やがてその跡には・・・人が倒れているように見える。彼は周囲に注意を払いながら、慎重にその場に近づいていく。
倒れていたのは、どうやら少女のようである。暗さのために判別はつきにくいものの、大きな外傷もなく、胸部がゆっくりと上下していることを彼は確認する。
(何が起こっても不思議ではない世界とは言え・・・突然目の前に女の子が現れるとは思ってもなかったな)
なんとか介抱しようと彼は羽織っていたコートを彼女にかけ、抱き起こそうとして迷う。
(抱き上げて保健室に連れて行くべきか、それとも下手に動かさずに人を呼びに行くべきだろうか)
逡巡している彼の目の前で、彼女の目がパチリと見開かれる。
ナス「!あ、き、気がつきましたか?」
??「ここは・・・どこ?」
ナス「ここは、エスティバー学園・・・の、バスケットコート」
数回素早い瞬きをした後、彼女の目には次第に生気が戻ってくる。彼女は一気に上体を起こすが、さすがにふらついて再び倒れそうになる。ナスは慌てて彼女を抱き止める。
??「あ、ありがとうございます・・・あ、ええと、あなたは・・・」
ナス「私?私はナスといいます。この学園の2年生です」
??「!!」
-物語は、ここから動き始める-
(プロローグ・完)
今日も日が暮れ始め、校庭のあちこちに立っている外灯に明かりが灯り始める。秋風の予想外の冷たさに思わず身を縮めて足早に校門へ急ぐ生徒たち。その耳に、ハーモニカの音色が響く。
興味に駆られた幾人かの生徒たちは、その音の主を探しあてる。校庭横のバスケットコートへ降りる階段に腰をかけ、一心不乱に手に持ったハーモニカを奏で続ける一人の生徒。
通りすがりの生徒たちの多くは、その付近で足を思わず足を止める。その音に聞きほれているわけではない。むしろそのハーモニカの演奏はひどく拙く、何度も閊えながらどうにか曲らしきものを紡いでいるといったレベルである。それでも誰も野次の一つも発さないのは、彼がひどく深刻な面持ちで演奏し続けているからであろう。そしてその彼-ナス-は、他人から見られているということに気づいてすらいない。
(あのクラという宵月学院の生徒は、本当に私の兄なのだろうか?彼の言ったとおり、言葉よりも、実際に何か相通じるものを、彼に対して感じたのは確かだ)
ハーモニカの音が跳ぶ。
(彼の言った『楔』と『槌』の意味とは何だろう。もし私にEVPを止める力などというものがあるのなら、世界の役に立てるのではないだろうか)
一小節抜ける。
(運命に逆らう?ではEVPを止めずに何か他のことをするということなのだろうか?彼の目的とはいったい・・・)
テンポが狂う。
(彼は言うだけ言って『今日のところは宵月に戻るよ』と行ってしまった・・・これ以上ここで考えても時間の無駄、か)
演奏が突如止み、ナスは勢いよく立ち上がる。周囲は完全に暗くなり、さきほどまで様子を伺っていた他の生徒たちの姿も今はもうない。
と、突如彼の眼下のバスケットコートの中央に、まばゆい光の塊が出現する。EVP以降奇妙な現象は見慣れていた彼も、さすがに驚き、その光に注目する。光は徐々に収まり、やがてその跡には・・・人が倒れているように見える。彼は周囲に注意を払いながら、慎重にその場に近づいていく。
倒れていたのは、どうやら少女のようである。暗さのために判別はつきにくいものの、大きな外傷もなく、胸部がゆっくりと上下していることを彼は確認する。
(何が起こっても不思議ではない世界とは言え・・・突然目の前に女の子が現れるとは思ってもなかったな)
なんとか介抱しようと彼は羽織っていたコートを彼女にかけ、抱き起こそうとして迷う。
(抱き上げて保健室に連れて行くべきか、それとも下手に動かさずに人を呼びに行くべきだろうか)
逡巡している彼の目の前で、彼女の目がパチリと見開かれる。
ナス「!あ、き、気がつきましたか?」
??「ここは・・・どこ?」
ナス「ここは、エスティバー学園・・・の、バスケットコート」
数回素早い瞬きをした後、彼女の目には次第に生気が戻ってくる。彼女は一気に上体を起こすが、さすがにふらついて再び倒れそうになる。ナスは慌てて彼女を抱き止める。
??「あ、ありがとうございます・・・あ、ええと、あなたは・・・」
ナス「私?私はナスといいます。この学園の2年生です」
??「!!」
-物語は、ここから動き始める-
(プロローグ・完)