Letters unread

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あとちょっとだけ眠ったら 僕ら無傷でまた明日に行ける

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二人は旅先で出会った。
しばらくその土地に滞在していて、二度目に一緒に食事をした帰り道、移動遊園地に出会う。
夜の底を照らすきらびやかで刹那的な電飾に、彼と彼女は羽虫のように吸い寄せられる。

彼女の方が面白半分に彼をメリーゴーランドに誘う。
彼は渋々付き合ってみる。
子供向けの音楽に古びた木馬。大人の自分が乗るのは恥ずかしい。

夜闇に紛れてだからどうにか、という思いで跨がり、早く曲が終わらないかと思っている彼の目に突然、見知らぬ少女の心底楽しそうな表情が至近距離で飛び込んで来て、彼はびっくりする。よく見るとそれは先ほど一緒に食事をした彼女だ。
その瞬間、彼の瞳の奥でシャッターが切られる。


または、通信教育のスクーリングで出会った男女。
お互いの年齢はなんとなく分かるけれど、それ以外のプライベートは分からない。
唯一の接点である専攻科目の話をしながら、夜の東京を歩いている。

それは東京でも整然として清潔な、落ち着いた街角で、初秋の風も心地よく、二人はどこまでもそぞろ歩きたくなる。
少し陶然となった彼の方が、作りかけのメロディーを彼女に口ずさんで聞かせる。

曲を最後まで作れたことは一度もない。
この曲もきっと仕上がらない。

未完成のメロディーを他人に聞かせるなんて、いつもはそんなナルシスティックな真似はしない。
なのに彼女には聞いて欲しくなる。彼女はきっと否定しないから。

彼女はいい曲ねという。

通り沿いに帽子専門店がある。夜遅いのに営業しているので、二人は冷やかし半分に入ってみる。
所狭しとディスプレイされたキャップやハット、彼女は突然彼に帽子を見立てると言い出す。

彼女は店を回って、ニットキャップを持ってくる。
彼は少し体をかがめて、彼女がかぶせてくれるのに任せる。

ほら、とても似合う。

彼女が彼を見上げてにっこり笑う。



前半と後半の話に出てくる女性は、同じ人。

後半に出てくる彼は、僕だ。