名前 | マサヨ荘・17号室

名前

バイト先にね。
最近、すんごい愛想悪い人がよく来る。
わがままで、笑顔の欠片もありゃしねえ。

今日もお店に来たんだけど
彼女の欲しいパンが焼きあがってなくって
予約する事になったみたい。

スライサーで食パンを切りながら
ふと。目の前の予約票に目をやるとさ。


備考の欄に


『車いすの人』


って書いてあった。


そう。
彼女は足が不自由で車いすにのっている。
私のバイト先の玄関には段差があるんだけど。
中を眺めてた彼女を見つけて
車いすを持ち上げて店内に入ってもらってさ。
それがきっかけで、彼女は頻繁に来るようになった。

二人がかりで車椅子を持ち上げて
私達が欲しい商品を彼女に代わってトレイにいれていく。

しかし、いつもムスっとしている。
お礼を言う所も見たことがない。

店員の間で彼女の評判は至極悪い。
私も正直、良いようには思わない。

彼女がお礼の一つも言わないのは
私達が疎ましく思っているのを、うすうす感じているから?
態度に表しているつもりはないけど。
障害を持つ人にとって
そういったマイナス感情には
敏感になっているんかもしれない。

そう考え始めるより前に、
なんだか今日の備考欄は引っかかった。

『車いすの人』

いつもの予約票には名前だけ。
備考欄にそう書く必要があったのか?
彼女が車いすに乗っているのは事実だし、
そう書いてあれば誰にでも分かりやすいのかもしれないけど。

もし私がお客として行ったら
『ホクロの人』って書かれるのか。
まず書かれないでしょう。

もしアンパンマンがお客として来店したら
私は『顔がパンの人』って書くのだろうか。

・・・書くかも。

今日の彼女の予約をとっていたのが私だったら、
もしかして同じ様に書いていたかもしれないし。


でも。なんか。
よくわからんけど。
引っかかる。


「障害を持つ人を特別視している」
そう言いたい訳じゃない。
だって、こうやって私が何か引っかかっているのも
無意識のうちに
『謙譲者の私・障害者の彼女』
って差別化してるからだと思うし。

『・・・・の人』

じゃなくてさ。
一人一人名前もってるんだから。
それでいいんじゃないの?
見た目で判断するなら、
もう名前はいらないんじゃない?




ごめん。
話まとまらない。
私自身、何が引っかかるのか
まだ答えが出せないでいるから。
ごめんなさい。