大正十二年九月一日 十一時五十八分   



正子 小学校5年生




学校は、始業式で十一時にはもう家に帰っていました。



お昼のご飯を食べたら寺島さんの空き地の木陰で遊ぶつもりで、暑い納戸で本を読んでいると、なんだか足の下でゴーっと云う地鳴りがしました。



まもなく、グラッ!グラグラグラと家がゆれはじめました。



「こわい!!」と云って私は座敷のおじいさんのところにヨロヨロしながらかけて行きました。



祖母が「ああ、おとろしか(おそろしい)」と云って、奥の部屋から歩いて来ました。



姉が、弟を横抱きに抱えて走って来ました。



「こわい、こわい」と、弟が泣き叫びました。



茶の間の茶だんすの上の置時計や人形ケースが落ち、戸棚の中の瀬戸物がこわれる音がします。



庭のほうを見ると、屋根から瓦がバラバラ落ちて、庭石に当たってバシッ!バシッ!とこわれます。



おじいさんの大事なおもとが棚から落ちて、大事な鉢がこわれます。



どの位時が経ったのか・・・



母が、中廊下の方から青い顔をしてヨロヨロ、ヨロヨロ入ってきました。



「便所に入っていて、戸が開かなくなったので、なかなか出られなかった。やっとの思いで出て来た」と云っていました。



もう、何もかもがメチャメチャで、ただただ怖くて「この世はもう終わり」かと思いました。



みんなが、おじいさんを囲んで座っていました。



おじいさんは、



「こげな時は、落ちつかにゃ慌てては、いかん

揺れは、じき止む。」と云いました。



大きな手で、私の背中をギュッとおさえていてくれました。



外に出ていた兄が、帰って来ました。



「僕、今外で聞いてきたんだけど、『何か食べ物やロウソク等を買っておいた方がいい』と、みんな云っていましたよ。」と云いました。



 兄がそう云うか云わないうちに、母が兄にお金と風呂敷を持たせて、「何でもいいから買ってきてちょうだい!お米でも、お芋でも!」と、云いました。



兄は、外に駆け出して行きました。



 しばらくすると、兄は

「もう、みんな素早くて、これしか買えなかった」と云って、サツマイを五本と大きいロウソクを二本、仏様に上げるような小さいロウソクを一箱とマッチの徳用箱を一箱買ってきました。




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