入社して2か月が経過。

 

世間はすっかり暖かくなっていた。

 

東京都心での家の職場の往復の日々だったが、歩道に植えられた木々は緑色に色づき、自然も感じられる環境だった。

 

が、当時の僕はそんな余裕もなく、日々電話にかぶりつく毎日だった。

 

 

 

いつものように朝礼が終わり、電話をかけるための名簿とにらめっこしていると、

 

「こっちの名簿をやってみない?」

 

 

S課長代理が優しい声で、各新人に新しい名簿を持ってきてくださる。

 

僕がもらった名簿は、とある自動車の製造メーカーと販売店ディーラーがのっていた。

 

 

 

心機一転、気合を入れなおして取り組んでみることに。

 

 

しかし、しばらくは相変わらずガチャ切りが続いた。

 

 

名簿をもらってから1週間くらい経過したころだったと思う。

 

 

隣県のディーラーで、30代前半の男性を話ができた。

 

第一声は、

 

「そんな余裕はないよ。」

 

とのこと。

 

「そうですよね。」

 

と、教えられた通り、返答してくださった言葉に返し、同調する。

 

しかし、そこから会話を膨らませる技術は、当時の僕にはなかった。

 

 

すると、

 

「ははは、そうですね。

 

では、ちょっと忙しいのでこれで失礼します。」

 

と言われる。

 

一方的に電話を切られるわけでもなく、いきなり電話をかけてきたみずしらずの僕に対しても、丁寧な対応をしてくださった。

 

 

いつもは「興味がない」と言って切られるが、今回は「余裕がない」だし、一方的に切られなかったぞ。

 

いつもの断り文句とは違うという感じが引っ掛かり、名簿にメモして次に行った。

 

 

その日の夜。

 

電話営業時間が終わり、Y係長に、

 

「今日はどうだった?」

 

と聞かれる。

 

僕は、断り文句にいつもと違う感覚を感じたことを報告。

 

「余裕がないと言われた人がいました。」

 

すると、

 

「明日も、同じ時間に電話かけてみろ!」

 

といわれる。

 

 

「電話をしろ!」とだけ言われ、具体的な話し方は一切言われないまま、その日は仕事を終了した。