2週間にわたる新人研修が終了し、各部署に配属されることになった。

 

 

 

本社の新築ワンルームマンション販売の部署は、営業本部が2つで、そのなかに営業課が5つづつ、

 

本部長は営業担当役員が兼任、そしてその下に部長、課長、そして一般社員がいる。

 

課長以上は席の角度が違ったり、島ではなく独立している席だったりするので、かなり存在感がある。

 

 

 

体育会系の営業会社だからなのか、上司はみなこわもてに見える。

 

そして、ほとんどの人たちの目にクマができている感じだった。

 

課長以上は電話営業をしておらず、島にいる先輩たちは、ひたすら電話をしていた。

 

1~2年上の若手の人は、主権者に電話がつながったらスタンディングし、フルテンションで話をしていた。

 

「朝礼前でも、電話営業するんだ。」

 

フロアに入った瞬間に感じた感想だった。

 

 

そして、定時になり、営業部フロア全体で朝礼。

 

 

 

(司会担当課長)「おざっす!」
 

(全員)「おざっす!」

 

 

 

(司会担当課長)「まず昨日の成果から、〇〇マンション△△号室、担当S係長!」

 

(S係長)「はい」

 

といい、S係長が前に出る。

 

 

(S係長)「昨日、〇〇マンション△△号室をご契約いただきました□□様、定年退職後で無職、現金満額2件口です。」

 

 

(全員)「おおぉ~」

 

という歓声と拍手が巻き起こった。

 

 

当時は何のことだかさっぱりわからなかったが、ローンを使わずに現金購入でワンルームマンションを買う人は、とてもめずらしかった。

 

マンションを担保にお金を融資する金融機関の条件で、頭金は約1割ほどいるという決まりがあった。

 

しかし、現実的に200万円ほど必要となる頭金を払ってまでワンルームマンションに投資する人は限られており、そのルールに従っていたら売り上げがあげられない。

 

契約書には正規の売買価格を記載し、実際には値引きをするという対応で、ほぼ満額借入でマンション購入ができるというスキームを当時は使っていた。

 

いわゆる、2重価格だ。

 

もしその1割に当たる「頭金」を支払ってもらえるように交渉できたとしたら、その半分以上が歩合となり、翌月の給料に上乗せされるというシステム。

 

今回の契約、S係長は頭金を支払ってもらい、しかもそれが2件

 

単純計算で、歩合だけで200万円を超える

 

係長は固定給38万円だから、1か月の給料が230万円以上になる計算だ。

 

しかも、年間ノルマを達成したS係長は、来月から課長代理に昇進することが確定。

 

課長代理になると、固定給が50万円になる。

 

 

 

 

結果を出せば、お金が稼げる。

 

これから始まるいばらの道の事を知る由もなく、当時の若造の頭の中にはお金の妄想でいっぱいだった。