文化祭の期間に、物質量の計算問題を宿題として出していた。200名以上の生徒のうち2,3名出していないが、他の生徒は提出してくれた。ところが、出来が1クラスだけ悪い。有効数字が守れない、掛け算割り算の筆算ができない、など。例えば6÷4=2.5とか、22.4×1.5=23.6とか。

 

 本来1クラスの中に数名は優等生がいるもの。通常私は、その生徒にできるだけ質問に行くようにお願いしてきている。私自身非常勤なので毎日出勤はしない。私がいないときに誰に質問をすべきか。専任の先生は忙しすぎてすぐ捕まるとは限らない。そんなとくクラスメイトは助けになる。ところが、このクラスにはそれに該当する生徒は1人もいなかった。やはり1学期に唯一一人も5段階の5がついた人がいなかっただけのことはある。

 

 これでは、クラス内で質問し合ってもとんでもない方向に行き、ボロボロになる筋書きが見えてしまった。ここで私は奇策を考えた。クラス内では質問し合わせず、必ず他のクラスの生徒に質問するよう命令するというもの。ただ私の決断だけではこれはできない。そこで、該当するクラスのクラス担任に以下のように報告した。

「文化祭の間に課題を出したのですが、そちらのクラスにはまともな出来の生徒は一人もいませんでした。このままでは、平均点が他のクラスより20点は低くなる可能性が高いです。つきましては、他のクラスの生徒に必ず質問に行かせるようにさせてよいでしょうか」

 

 私は、クラス担任が機嫌を損ねることも覚悟した。ただ、私よりも生徒の成績を優先して考えるべきと思っていたので、迷いはなかった。すると、以下のような返事を頂いた。

「この件については、私からでなく、先生から生徒たちに指示を出してください。その際には、どの生徒に聞くべきかも名前を指定したうえでお願いします」と。

そして、同席していた他のクラスのクラス担任も、「うちの生徒も、質問されたら喜ぶと思うのでぜひお願いします」と。

 

 クラス担任から許可が下りたので、それぞれのクラスに報告した。成績の悪い1クラスには、自分のクラス内で質問をすると間違った知識を植え付けられてしまうので、絶対に他のクラスの生徒の名前を教えたうえで、その人たちに質問する旨を。そして成績の良い人がいるクラスには、「1クラス、課題の出来が悪く、クラス内で問題の処理をしようとするとまずいので、協力してほしい」ということを。その話は化学の専任にも話した。専任の先生も、「生徒から質問が来た場合は対処し、できるだけそのクラス内に他の生徒からの質問に対処できる優等生を1人でも多く作りましょう」、との言葉を頂いた。

 

 この環境は非常に嬉しい。1つは、自分のクラスの生徒を出来が悪いと言われても、素直に受け入れてくれたクラス担任に感謝。さらに1つは、他のクラスの生徒に協力してもらうことを快諾してくれた別のクラスのクラス担任に感謝。そして化学の専任に感謝。実は学校によってはクラス間の競争があり受け入れられない学校や、自分のクラスの生徒の出来が悪いのを不機嫌に思ったり、教えている講師が悪いとつっかかってくる学校もあるのだ。実際にあった例で、私のクラスの生徒の成績がたまたまよかったとき、専任の先生が「私が質問を受けているのに、○○先生(私)のクラスの平均点が一番高いというのは損をしていると思う」と愚痴っていたなんて話を聞いたことがある。いや、学校は個人戦じゃないよ。今回のような総力戦なんだよ、と私は思う。

 

 定期試験、うまくいってくれるといいけどな。