スマホが鳴った。
もしかして…雅紀?
パッと立ち上がりソファーに放り投げていたスマホを、手に取る。
なんだ…母さん。
「…なに?」
『何しけた声してるの?』
「だから、何か用?」
『昨日の話』
「あぁ」
『あら?“ヤダよー”って言わないのね?』
今日一日雅紀と過ごして、俺の中で何か変わった気がしていた。
人の目を忍んで始めた高校生活。
智くんに守られて何とか静かに通ってた。
それでいいと思ってた。
だけど。
雅紀の親のコネを利用しようとした、俺。
両親の名前を利用したくなかった、俺。
矛盾だらけ。
智くんが心配そうに見ている。
『俳優業に復帰したいんでしょ?』
なんでこの人は、俺の気持ちが分かるんだろ?
『何かあったのね?』
「何もないよ」
『明日帰るから』
「分かった」
『素直すぎて怖いわ』
「………」
『翔。人はね、自分の理由でしか動かないからね?』
「……え?」
『私の都合で翔がこの仕事を“うん”と言わない様に、翔の都合で相手は動かないの。だから、翔が思う事をすればいいのよ』
「分かんねぇよ」
『相手を変えようと思ってもダメだからね。自分がどう動くか。それだけ。単純よ?』
じゃあね、と言ってた切れた。
自分が動くだけ?
雅紀を変えようとするんじゃなくて。
自分が変わる?
「翔くん。仕事の話?」
「そう」
「相葉って子。どうするの?」
えっ?
と智くんを見ると、さっきまでのギラギラした瞳じゃなくて。
小さい頃から知ってる、ふにゃふにゃな顔。
「翔くんの頭は、固いからなぁ」
んふふ、って笑う。
「どうしたいの?」
雅紀を抱きしめたい…。
“賭け”でも構わない。
それが始まりでも。
「答え出てんじゃない?」
柔らかい智くんの声が、胸の奥に響いて。
涙が出そうだった。
つづく