「何か…期待してます?」
クスクス笑いながら、葉山さんが覗き込む。
「いやっ、何言ってるんですか?」
「ヤダなー冗談ですよ、相葉さん」
もうっ!
翔さんが言っていたみたいに、いい加減な人なのかも。
「葉山さん、やめて下さい。仕事中ですよ」
「そうでした…申し訳ありません」
頭を下げ、“じゃあ行きましょうか?”と車を降りた。
工房では、独特の色使いの図案がたくさんあった。
凄え……。
久しぶりに、身体の中から何か溢れてくるような感覚になる。
夢中で図案や出来上がりの物を見た。
工房の絵師さんとも、お話が出来て、
オレは久しぶりに興奮していた。
“この色の隣の、コレは?”
“あぁ、これはですね……”
“このモチーフは…?”
“顔料は、これですか?”
と、次々に質問してしまっていた。
初めは乗り気じゃなかった絵師さんもいたけど、次第に人が集まってきて、大品評会が始まる。
染め上がった物。
それを仕立てた着物を着た、お客様の写真。
楽しい……。
わくわくしてくる。
あっ、そうだ。
後ろを見ると、葉山さんがにっこり笑って見ていた。
だから?
だから、オレを連れて来たの?
とんとん拍子に、契約の話に移り、
まずは、春の展示会に出品してみる所までこぎ着けた。
工房を後にして、遅い昼ごはんを食べに店に入っても、車の中でも。
葉山さんは、ずっとこの工房への想いを語る。
「何だか、別人みたい…葉山さん」
と笑ってしまうほどだ。
「それは良かったです。
どうです?
また、書きたくなってきたんじゃないですか?」
葉山さんに言われる。
もちろん…きっぱりと諦めた訳じゃなかった。
泣く泣く…描く事から離れた。
「また描いてみたら、どうです?
本当は描きたいんでしょ?」
図星をつかれる。
「それは…まあ…」
「相葉さん、見合いするですって?」
「えっ?なぜ、知ってるんですか?」
「本社の女子の情報網は、凄いですから」
にっこり笑う。
信号待ちで車は止まり、
葉山さんは、オレを見た。
「ステキな女性と結婚するんですか?」
胸が、
ずきゅっと、痛くなった。
「それとも……」
と言って、運転席から身を寄せた。
つづく