『で?で?』
目の前の友人が、昨日の話の続きを熱心な眼差しで聞いてくる。
「で、タクシー相乗りして、」
『うんうんっ』
「"お疲れさま〜"って。」
『…は?』
「ウチのが近かったから私が先に降りて。」
『…ほぅ…』
「"またねー"って。」
『バカ。』
「なんでよっ」
『なんでお持ち帰りしないのよぉ〜っ!』
「なんでお持ち帰りするんだよぉ~っ!」
私が友人なつこの真似をして聞き返すとなつこは、困ったような顔で私を見つめる。
な「華(ハナ)は…好きなんじゃないの?そのアイバチャンってコ。」
華「や、好きだよ?あんな良いコ、好きに決まってるよ。でも…それだけよ。…キュンとかしないもん。」
私の返事になつこは
な「…やっぱキュンが無いと…違うのかなぁ…」
困った顔のまま、つぶやく。
華「……なつこも、キュンは無いってこと?…二宮さんの弟くんのこと。」
な「…無い…なぁ、昔から。なんか…振り回されてるばっかりで。ほら、ニノの弟だからさ、放っとけないってのもあったし……」
なつこが独り言のようにそう言って。
私たちはお互い困った顔で見つめ合ってから、深く深く、溜め息を吐いた。
『で?』
目の前の友人はゲームをしながら俺に相槌を打つ。
目線は画面から離さない。
これでちゃんと話を聞いてくれてるから、そういう所尊敬する。
「で、タクシー乗せられて、」
『うん。』
「パイセンちの方が近いからって先に行って、」
『ほぅ。』
「"お疲れさま〜"って、タクシー代押し付けられて、"またねー"って…」
『あら。』
相変わらずゲームをしたままの友人ニノは、涼しい顔でそう言ってから
和「いくらもらった?」
と聞いてきた。
雅「え?」
和「タクシー代。余った?」
雅「うん、余裕で。だって万札握らせるんだもん、パイセン。だから明後日、会社で」
和「バカ。」
雅「えっ?」
和「なんで。待たなくていいじゃん、んなの。"大金なんですぐ返します"つって行っちゃえばいいよ、パイセンとこ。」
雅「ぇえっ!?」
和「電話して。」
雅「電話っ?誰っ?」
和「パイセンしかないでしょー。ほら早く。」
雅「え、え、今?すぐ?」
和「今すぐですよ決まってるでしょ。"すぐ返します"って口実使おうとしてんだから。間が空けば空くほど効力無くなっちゃうでしょ。」
雅「わわ解った。」
俺がそう答えるとニノは、ようやくゲームから目を離して。
少し心配そうな目で、パイセンに電話する俺を
見守ってくれた。