カキーン!!
ズバンッ!!

だだっ広いグラウンドに鳴り響く、音。声。
ゆうに100名はいるだろうか。

祥人と雅樹が通う「真翔大学附属高等学校」は、全国でも屈指の野球の名門校。
日本中から将来を渇望された猛者共が、毎年こぞって入学してしてくる。

ピッチャーの祥人とキャッチャーの雅樹は中学時代、チームこそ大した成績を残せていなかったが、バッテリーとして県下ではその名を知らないほど名を轟かせていた。


そんな彼らが入学してから迎える初めての夏の甲子園の予選が、1ヶ月後に迫っていた。
そのレギュラーを決める大事な紅白戦が、本日行われる。


「集合ー!!」


キャプテンのよく通る声が、グラウンドに響き渡る。

3年生キャプテン、真中。
中学校時代、全国優勝を遂げたチームのエースピッチャー。
そんな彼は1年生時からここ真翔大学附属高等学校でもやはりエースピッチャーとして、試合に出続けていた。


「今日はお前ら1年も知っての通り、次の公式戦のレギュラーを決定する大事な紅白戦だ。結果次第ではレギュラー入れ替えもあるから、全力で挑むように!」


…ザワザワ。
(マジか!!1年からも選ばれるってよ。)
(でも先輩達に勝てたらの話だろ?)
(無理だろそんなの。怪我しない程度に流そうぜ)


「…だってさ祥人。」

「おう!!聞いてた通りだな!」

「ああ。でも周りの奴らはあんな感じで言ってますけど??」

「無視無視!俺はなにがなんでもレギュラー取ってやるからな!!」

「おーおーすごい意気込みだこと。ま、せいぜい頑張れよ。」

「なに他人事みたいに言ってんだ!俺の球はお前じゃないと取れねーだろ!!」

「へいへい。んじゃいっちょ先輩方の悔しそうな顔拝んでやりますか!」


【ウゥゥゥ~】
公式戦と同様、大きなサイレンが鳴り響く。

1年生vs2、3年生。
まずは2、3年生チームの攻撃から始まる。
1年生チームが勢いよくベンチから飛び出す。

「へへっ。やっぱりマウンドはいいな。久々に燃えて来るぜ!」


(嬉しそう顔しやがって。昔から変わってねーなー)

キャッチャーマスクの下の雅樹の顔も、どこか笑みを浮かべているように見える。

祥人が大きく振りかぶる。


ブンッ!

バットが空を切る。
雅樹が構えるキャッチャーミットへと、寸分の狂いも無しにボールが収まる。

「おーいてて。相変わらずの威力だな。こりゃ大変だ。」

「よっしゃー!!」

拳を強く握りしめる、祥人。


「ほう。」
真中も初めて見るその威力に目を細めた。


「おいおい、まだ一球だぞ?大袈裟すぎだよ。」
雅樹がボールを優しく投げ返す。

寸分なく祥人のグラブに収まる。
「やかましい!お前は黙っていつも通りリードしろ!!」

「へいへい。」

一見、祥人の暴れ馬のような豪速球に目が行きがちだが、雅樹の巧みなリードにより今まで数々の打者に苦汁を飲ませてきたのである。

(さてと、次は佐々木先輩か。)

このチームで4番を務める、3年生、佐々木。
昨年春の甲子園で10本の本塁打を放ち、スポーツ新聞の1面を飾ったのは記憶に新しい。


(この人、隙がねーんだよなー。
んー、どーすっかなー。…これいっとくか!)
雅樹からサインが送られる。


(はっ!?マジ!?大丈夫かよ、雅樹!?)


(大丈夫だ。いつも通り自信もって投げてこい!)


(くそっ!どーなっても知らねえからな!!)

祥人が大きく振りかぶる。


ズバンッ!!

雅樹の指示通り投げたそのボールは、佐々木のバットに空を切らせ、見事キャッチャーミットに収まった。

(おぉ!さすが雅樹だぜ!)

(あぶねーあぶねー。あと5cm内側だったらもっていかれてたな。なんて人だよまったく。)


最大の山場を越えた1年生チーム。
気付けば、7回表までスコアボードに「0」を積み上げていた。


「よしよし!このままいけば完封も夢じゃないぜ!!」


「バーカ。それは出来過ぎなシナリオだ。気抜くんじゃねーぞ」


「大丈夫だよ!お前のリードと俺の球があれば、無敵だぜ!!」


1年生ベンチは、あの先輩達と対等に戦えているという満足過ぎる状況から、とてもいい興奮状態で終盤戦を迎えようとしていた。



この後迫り来る悪魔が、すぐそこにいるとも知らずに…。




【とかげノベルズ】
とかげベイベー「マサキ」と「しょっぴー」が土日限定で交互に、
お互いのブログで感性のみで書き綴る、
全8話の短編リレー小説。