職場に向かう時
とある団地の敷地を通る。
少し開けたところに、八重桜が鈴なりに咲いている。
ソメイヨシノと違って花もちが長いね。
花の色も少し濃くて、ピンク色はそんなに好きじゃないけれど、青空の下風に揺れる姿は元気にさせてくれる。
いってらっしゃ~い、って手を振ってくれてるような気さえしてくる
昨年の春は寒かったような気がする。
もっと薄暗かった気がする。
こんな風に周りは色づいていただろうか。
花は気持ちよさそうに体をゆすっていただろうか。
実際に調べたら、そんなことはないかもしれないけれど、私の体感では空はいつも灰色だった気がする。
昨年の今日は夫が救急車で運ばれた日。
朝方、まだ太陽も眠る時間、私は足をたたかれて起こされた。
まだ寝ぼけ眼の中、うずくまる夫の姿がそこにあった。
腹痛に苦しんでいた。
救急車をよばなくちゃ。
子供たちはおいて行かないと。
帰ってこれるかわからないから朝ご飯用意しなくちゃ。
頭が働かない中、パニックで、逆に夫のことを気遣うことができなかった。
背中もさすってくれない奥さんを夫はどう思っていたかな。
このまま入院になり、その2週間後、病院で息を引き取った。
この日から我が家に夫の息遣いは消えてしまった。
それまでだって入院で家を空けることはあったけど、帰ってくるって思っていたから不思議と不在は感じなかった。
いつもよりずっと家が広くてしんとしていた。
物静かな夫なのに、音が、温度が、いつもより足りない。
この時は、帰ってくることを願いつつ、でも心のどこかでもう帰ってこないことを覚悟していたんだと思う。
もしも一緒の寝室で寝起きしていたら。
もしももっと早く気付いていたら。
もしも…もしも…もしも…
そんな後悔は抱えきれないほど持ち合わせている。
でも、もしもそうできたとしても結果は変わらなかったかもしれない。
もしかして、もっと悪い結果だって起きていたかもしれない。
でも考えを辞めないのは自分を慰めるためだと思った。
もしも何かをしていたら、夫は生きていたかもしれない。
それほどまでに夫の人生に深く入り込んでいた私。
夫の人生を左右するほどだった自分をそこに探しているんだと思う。
そして夫にそんなことができたのは、世界中で私だけ。
すごいうぬぼれだと思う。
いったい私は何様だろう💦
でもそのうぬぼれが今の私を支えている。
涙も後悔もうぬぼれもすべて私だけのもの。
子供達だって入り込めない。
でも本音は、まだ知りたくなかったな。