裸電球のある部屋の記憶
まだ子供だった頃、実家の父の部屋は
裸電球が一つあるだけの薄暗い部屋だったことを覚えている。
上部にある四角いスイッチをくるっと回すと、オレンジ色の灯りがつき、
真下にあった畳が照らされるのだが、部屋の四隅は薄暗かった記憶が懐かしい。
先日、新宿区の物件を内見し、お客様もとても気に入られて、昨日、無事に契約を
頂いた物件がある。
真南を向いたその物件は、ドアを開けた瞬間から、明るい日差しが差し込む。
加えて、リノベーションもされているので、抜群に印象が良い物件であった。
そこに細かな説明はいらないほど素晴らしい。
そして、この物件。僕にとって最も印象深かったことがある。
それは裸電球が設置されていたこと。
後方にある新宿の高層ビル群とのコントラストが、田園風景が広がる茨城の実家とは大違いである。
けれど、そんな違いは僕の懐かしい記憶が蘇ってくる抵抗にはならなかった。
あれころから20年以上が経ち、時代は昭和から平成に変わった。
その間、裸電球なんて見ることもなかったけれど、飛び込んできたこの裸電球の姿は忘れてはいない。
懐かしい記憶が蘇ってくるのも当然の流れだ。
子供だった頃の父の部屋は、センスない家具が並び、古びた畳の和室で薄暗い。
居心地が決して良いわけではなかった。
その環境の不満や記憶が、いま僕がしている不動産の仕事の源泉になっている。
居心地の良い空間を求めて、お客様へ物件を紹介し続けている。
それにしても、リノベーションされていたこの部屋に、
どうして裸電球が取り付けられていたのだろうか。
その真相のほどはわからない。
いや・・・わからなくてよいのだ。こうしてまた、この懐かしい電球を見ることが出来て、ご契約も頂けた。
その事実だけで僕の気持ちは彩られたのだから・・・。