『秋風記〔モントリオル〕』は、第一部(一~八章)、第二部(一~六章)で構成された長編小説。

モーパッサンは「最初の二章で四十人の人間を躍らせた」と自ら述べていたようだが、確かに読みはじめは人物があまりに多くてちょっと混乱しそうだった。

 

 
裏紙に登場人物を適当にメモしてたら、無駄にたくさん出てきた…
自分にしか分からないメモ😅
 

 

ところで、昭和13年発行の邦訳(杉捷夫訳)のタイトルが『秋風記』だったのはどうしてかな。後に『モントリオル』『モン=オリオル』などのタイトルで出版されている。原書は "Mont-Oriol" で「オリオルの山」となっている(カナダのモントリオールじゃないわよ~!)。オリオルは百姓である登場人物の名に由来。

なお一年後に太宰が同タイトルで作品を発表している。

 

 

 

 

舞台はフランスオーベルニュ地方の温泉地でアンヴァルという場所。自然豊かな美しい温泉は医療としても使われ、医者や湯治客が訪れる。

そこで金融や投機事業、湯治産業を発展させ収益をあげようとする銀行家(事業家)の奔走、それと交差するように情欲にみちた恋愛模様が色濃く描かれている。

湯治したーい!

 

それぞれの人物の心情が繊細に描かれているが、モーパッサンは誰に対しても冷静でいて同情心を持たせず、しかも皮肉って描いているようだった。

人間の愚かさ、不正や虚偽が浮き彫りになるが、それに気づかない鈍感さも見える。だから人間がかっこ悪くも見えてくるのだ。もちろんそれだけではなく、時に立派に描かれる面もあるが、なんか…薄れてしまう。

また、ブルジョアと百姓、そしてキリスト教とユダヤ教の絡み合いも意味するところがあるように感じた。

不幸なことに、私自身も人間ってこんなものかなという諦念を感じることがあるけれど、そういうものを改めて感じてしまったのだった。。。

 

 

とはいえ、人を好きになる瞬間や恋に落ちた瞬間、そして恋のおしまいのときまでの人間の心模様が鮮やかに繊細に描かれているのを読んでいると、それは真理のように思えてきて、やっぱり私は純文学が好きだなと思う。

 

時代的な要因もあるのか、単にその人物の性格なのか、特に男性の言動がキザで、若干ひいたり笑えたりもしたけれど、恋をする感情って時代が違っても国が違っても身分が違っても根本は変わらないようだ。

 

 

 

 

先に記述した通り、この作品はなにせ登場人物が多く、主人公は誰かなと若干迷ったりもしたが、ヒロインとなるクリスチアーヌの立場に立って彼女の恋の流れをほんのちょっと書いてみる。

 

彼と出会う前は、特に思い悩むことなく不足ない日常を送っていたのだ。

そこに思いがけない人との出会いが訪れた。その人はちょっと変わっていて、好きになるなんて思いもしなかったのに、彼の行動や言動に驚きと新鮮な魅力を感じるようになった。いくらか自分に気がありそうな言い寄り方、心掻き乱す話、恋をしそうな瞬間が訪れてしまう。気になり始めると、彼を考え思いがやまない日々が続き、涙もろくなり情緒不安定にもなった。

とうとう彼から告白されたことを皮切りに、完全に恋に落ちてしまう。思いが通じ合ったであろう尊い瞬間、関係の始まりはいつでも楽しいもので、最初の接吻は言い難いほどの狂おしさがあった。恋愛で幸福を感じるとき。

しかしそういう時間は長くは続かず、恋をしたときに感じる特有の苦しみがやってくる。不安感や孤独感。さらに根拠のない被害妄想や嫉妬が襲う。結局恋が叶っても涙が出るのだ。

徐々に相手が遠のいていく気がする。不安。繋ぎとめておきたい一心で幾度も相手に自分への愛情を確認をする。が、とうとう相手の心が自分から離れてしまったことが決定的になったときの絶望、狂乱。魂を激しく打ちのめすほどだ。

死んでしまいたくなったけれど、恋のおしまいを乗り越えるときがやってくる。それは女性の身体の変化と重なる。

失恋の痛手を乗り越えられた時、すでに男女の立場は逆転していたのだ。

 

さようなら

永久にさようなら!

誇り高き魂の絶望と勇気に充ちた別離の言葉、これから先も尚長く苦しむであろう女の別離の言葉だった。ことによったら永久に苦しむかもしれない。しかし少くとも自分の涙を万人に向かって隠すことはできる。

すごくいいとこなんだけど、ちょっと訳文が古めかしいわね。。

わたしも涙を万人に隠して頑張って生きているのだ。

 

 

最後のクリスチアーヌのある行動がとてもよくて、最後でこの小説が一気に好きになった。

といっても、クリスチアーヌは既婚者なんだけれどね。。

既婚者の恋はフランス文学あるあるだから特になんとも思わない。それに私もクリスチアーヌの立場だったらそうなると思う。彼女のようにそれが罪悪だとも思えない(危険分子)。ただし幸せにはなれない。人妻にはガードがあるけどそれを押しちゃえば落とすのってそんな難しくなかったり。。

 

クリスチアーヌは失恋を自力で乗り越えた引きかえに、強さを手に入れたが、親切で献身的な夫(といっても…やっぱりちょっと違うのよね…)を裏切ったため、ある嘘を生涯抱えて生きていくことになる。

しかし、彼女の場合は嘘をつき通すというより、嘘を真実にできるちからをも手に入れたように感じる。

 

夫をだましたこと、夫を裏切ったことから、後悔の念一つ湧いて来ない! 彼女はそれにびっくりし、何故だろうと探して見た。何故だろう?