今日も北風が強くて寒かった雪

こんな寒い日には、厳しい冷たさの感じる本を読んで心の芯から冷えよう!

 

 

氷の城 (タリアイ・ヴェーソス・コレクション)

 

 

ノルウェーを代表する作家が描く『氷の城』。

タイトルや薄いブルーの装丁からして冷たそう雪の結晶

 

原書はノルウェー語(ニーノシュク語)で書かれている。英語版の "The Ice Palace" はこんな感じの装丁で、こちらも素敵(アンナ・カヴァン味…)。

 

 

The Ice Palace (Penguin Modern Classics) (English Edition)

 

 

芯から冷えてやる~と思って読んでみて、確かに「氷の城」の場面では、身体が凍てつくような感覚を覚えた(単なる冷え性か…)けれど、この作品の最後は氷解の季節になるため、読了後はコチコチだった身体が少し緩んだ気がする。

 

さらに、ヴェーソスの作り出す静謐で幻想的な世界は、普段とはちょっと異質な読書時間になった。

 

 

雪の結晶雪雪の結晶

 

 

一見なんの特徴もないような平易な文が続く。普通に頭で理解しようとして読むと、あまり魅力を感じ取ることができない気がする。

はじめ、そうやって読んでいたから、この作品の良さがどうも分からなかった。

 

作品の魅力が感じられないのは読者の読み方が悪い! なんてよく聞くけれど(と言われても魅力感じないものは感じないんだけどね…)、でも今回は私の読み方が悪かったみたい。急ぎすぎたかも。

だって、はじめから読み直したら、すっごく幻想的で自然の凄味あふれる描写……というありふれた表現をしたくなくなるくらいの、もはや神々しさを感じるような印象を受けてしまったから…!

 

『氷の城』は、文章を追いながら美しい映像が頭に思い浮かべられる作品なので、この映像をおろそかにしてはもったいないと思った。

じっくりと読んで、本の世界に入って堪能したい。できれば家でひとりで静かに。

翻訳も、ヴェーソスの世界を守り決して壊さないように、注意深く日本語に訳したとのこと。

 

だから、読み返して本当に良かった。

この魅力が分からないまま売り行くところだった。

 

 

雪の結晶雪雪の結晶

 

 

ちなみに、作者のタリアイ・ヴェーソス、あまり馴染みのない作家だったけれど、ノルウェー文学といえばこの人!って感じで、国民的作家のようだ。

前回、ノーベル賞を受賞したヨン・フォッセもノルウェーの人だけれど、ヴェーソスも文学賞候補に何度も名をあげられ、「人間の孤独や不安といった根源的なテーマを、簡潔な文体で描く」作家とのこと。

(今度読もうと思っているけど、ヨン・フォッセの戯曲も一筋縄ではいかないのかしら…)

 

 

雪の結晶雪雪の結晶

 

 

『氷の城』はとても幻想的で神秘的な美しさを感じたけれど、恐怖も感じた。特に極寒地域ならではの自然の恐怖を。

 

舞台は冬のノルウェーの田舎。時期は晩秋から厳しい冬、そして初春までの季節が描かれている。寒いのはもちろんだが、暗い!

私の家の周りは夜でも常に明るいから、地方へ行った時に経験する真暗闇は本当にこわいと感じる。そのかわり綺麗な星空が見えるのは羨ましいな流れ星

 

訳者あとがきによれば、ノルウェーの冬をこのように解説している。

太陽の見える時間が短く、北のほうではクリスマスの頃になると太陽がまったく昇らない日が続く。〔…〕

ここで育つ子どもたちは暗いなか登校し、放課後は外灯の光のもとで遊ぶのである。

 

私は北欧の極寒の季節をまったく知らないので、新鮮な感覚でもあった。

例えば、氷が縮み、ひび割れを起こす時に鋭い音をたてる。すごい音のようだから、きっと自分が聞いたらすごく驚くと同時に怖がると思うんだけれど、現地の人にとっては「うきうきする音」でもあるらしい。氷が縮むことによって丈夫になるようでスケートの季節が来た♪と。

また、雪が降ると残念に思う感覚(スケートができない)や、寒さが和らぐ感覚。

そういえば、晴れているよりも雪が降った方があたたかいという感覚は『北の国から』で五郎さんも言ってたな。。

 

 

 

せっかくなので、ノルウェーの冬景色をどーぞシャンパン

 
 
※写真は「北欧ガイド」よりお借りしました
 

 

 

一番の自然の驚異(というか魔力)を感じたのは、なんといっても「氷の城」の場面。

滝の飛沫によって、滝の周りに氷の城ができる。自然現象。この場面は、私の頭の中で滝の轟音がずっと鳴り響いていたし、鳥肌が立っていた。死の寒さだ。

 

この「氷の城」には誰もが魅了される。

まず少女が魅了され、大人の男たちも魅了され、おおきく羽ばたく鳥までもが魅了される。もちろん読者も。なんだかもう神の領域みたいな感覚…!

(このような「氷の城」現象は現実に存在するのだろうか。こういう何にも抗えないような光景を目の当たりにしたら、自分の中の何かが変わりそうな気がする…)

 

しかも、この「氷の城」は生きているかのように刻々と姿が変わるのだ。

滝飛沫が凍ることによって氷の壁はより強固になるし、滴り落ちる雫がすぐに凍ることによって、これまで塞がっていなかったはずの空間にいつの間にか氷壁や氷柱ができたりする。

下手に入ってしまったら氷の世界に閉じ込められてしまうことも。

 

私から見たら「氷の城」は、美しき "DEATH Palace"! デスパレスに導かれし者たちは死ぬ~!(DQⅣ)

 

 

氷の城の中はこんなイメージ?

ノルウェーの氷の洞窟(こちらもお借りしました)

 

 

さらに、氷のように透明感溢れる二人の少女の絆も物語の根幹であった。

言葉を交わしていなくても、なんかお互いに惹かれる場合ってあるみたい(私はないからよく分からんが)。そんな感じで、ビビッと運命的に惹かれあった二人の少女。

……やはり、言葉にすると陳腐なのでやめる。

 

このように、言葉にしたら忽ち壊れてしまいそうな二人の関係は疑問が残る部分もあるけれど、それでいいのだ。そうじゃなくてはいけない。この少女においては、多くの言葉で表してはいけない気がするから。

 

 

雪の結晶雪雪の結晶

 

 

本を読むとき、読者は先入観なしに読まなければならない。そうすれば、物書きが言おうとしていることを感じ取ることができるかもしれない。読む人が冷静に理解できるようなことを書いてはいけない。心で感じることしかできないものも、あっていいのだ。読者の心の奥に閉ざされている部屋を開けるチャンスを与えなければならない。読者に近道を歩ませてはいけない  幸いなことに、読者は読者本人が最初に思っている以上に、わかる力を備えているのだから。

(ヴェーソス『物書きについて』より)