一部の友人は、私のことをこう呼んでいる。
かつて、私は極めて引っ込み思案な子供であった。
人との距離の取り方がわからない。
言いたいことが上手に言えない。
成績もパッとしない。
本当は積極的に発言したり立派な作文を書いたりして先生に褒められる子供になりたかった私は、次第に「このままじゃいけない」と真剣に思いつめるようになった。
小学校4年生のある日。私たちはクラスのリーダー「学級委員」を決める日を翌日に控えていた。
放課後のホームルームで「立候補する人は手を上げてください」と先生。すかさず誰かが「Hさんがいいと思います!」とか言う。Hさんは学級委員の常連で、成績優秀、夏休みには持ち帰ったへちまを丸々と太らせてくるクラスの人気者である。他にもOさん、Tくんなど常連候補者の名前が挙がった。
なんとかして自分を変えたい、と思いつめていた私は、学級委員に立候補するとひそかに決意していた。しかし、立候補者ゼロの現状では、さすがに挙手するのがためらわれた。
「立候補する人はいないの?」と最後に念を押す先生。するとクラスいちのバカキャラKがウケ狙いで挙手。私はこの機を逃すまいと、混乱に乗じて手を挙げた。
好きな人に告白するぐらい、どきどきしたのを覚えている。
かくして、私の名前はいちばん最後にラインナップされたのであった。
「それでは、明日の朝のホームルームで投票します」と先生。明日の朝。それは私の人生において最初の正念場であった。
翌日。各人の手元に小さな紙切れが配られた。そこに自分が推す候補者の名前を記入するのである。当然のごとく、私は自分の名前をそこに記し、小さく折りたたんで回収箱に入れた。
ホームルーム委員の手による開票が始まる。次々に昨日黒板に書かれた名前の下に「正」の字が書き込まれていく。しかしながら私の名前の下には棒の1本も引かれない。私の額を嫌な汗が伝った。
しばらくして級友たちが「あれ? なんでショウジの名前が書いてあるの?」とか騒ぎ始めた。いよいよもって立場のない私。「えーと……、なんでかな?」などとすっかり弱気になってとぼけて見たそのとき。
最後の最後になって、私が投じた一票が開票され、ゆっくりと一本の棒線が私の名前の下に書き加えられた。
ざわめく教室。首を傾げるホームルーム委員。ありえないダークホースの出現に、とまどう生徒たち。みんな気づいていなかったのだ。私が立候補していたことに。私はこういった場における己の存在感のなさに、打ちのめされることとなった。
この1件は悪質ないたずらという風に処理され、私の名前はホームルーム委員の手によって一撃の下に消し去られることとなった。
学級委員選挙は予想にたがわず、Oさんの圧勝で幕引きとなった。
私はといえば、「生き物係」などという地味にもほどがある役職を与えられ、それから半年間、めだかの世話に明け暮れることとなった。
その後、水槽を掃除しようとしてうっかりめだか数匹を排水溝に流してしまい、同僚の生き物係・M君を大泣きさせるという不祥事を起こし、生き物係からも左遷されるという憂き目にあった。
しかし、5年生になってから私は立派にリベンジを果たし、学級委員になることができた。それに関しては、また機会を改めることにする。
ところでなぜ「リサイチ」なのかというと、そのとき黒板に書かれた私の名前が「リサー」(リサイチ)に見えた、という話を大人になってから友人に話したところひどく笑われ、それ以降、この不名誉な名で呼ばれるようになったからである。
どこをとってみても、ろくでもない思い出。アーメン。