1.  自殺は、古くは、諸国で犯罪とされたが、今日では、不可罰とされるのが一般である。

 その理由は、自殺は自損行為の極端な場合として、可罰的違法性を有しないものとみるべきである。すなわち、生存の希望を失った者が、その生命を絶つ行為には、行為者に対する非難を躊躇させるだけでなく、刑法秩序の範囲内においても不問に付してよいとするのが刑法の趣旨であると解する。

2.  自殺関与罪(自殺教唆・幇助罪)の行為

 教唆または幇助して自殺(自由な意思決定にもとづいて、行為者自身がその生命を断絶すること)させることである。「教唆し」て自殺させるとは、自殺の決意を有しない者をそそのかして自殺の決意を与え、自殺を行わせることをいう。教唆の手段には制限がない(注1)。明示的方法に限らず、暗示的方法によってもよい。また、「幇助して」自殺させるとは、既に自殺の決意を有する者の自殺行為に援助を与え、自殺を遂行させることである。たとえば、自殺の方法を教示するとか、自殺の器具を供与するなどがそれにあたる(注2)。

3. (注1)自殺教唆と殺人の区別

 教唆の手段には制限がないが、自殺者を欺く場合には、その程度がいちじるしいときは、殺人罪の関節正犯(責任能力のない者や故意のない者、さらには強制されるなどして責任を問えない者の行為や他人の適法行為を利用して犯罪を行う者。人をあたかも道具のように利用して自己の犯罪を実現することから正犯とされる)となりうる。たとえば、行為者が追死の意思を有しないのに、被害者を欺き、追死するものと誤信させて自殺の意思を抱かせ、自殺するにいたらせるような場合がそれである。行為者の追死することが、被害者の自殺の決意を固める上にもっとも本質的な点であり、それが欠けた場合には自殺は考えられない事態において、追死に関して被害者を欺くことは、自殺の決意に対する被害者の自由を奪うものにほかならないから、自殺教唆の範疇を逸脱しており、殺人罪を認めるべきである(最判昭和33年11月21日刑集12.15.3519)。

4. (注2)

 しかし、他人の自殺の実行に直接手を貸す行為は、自殺の幇助ではなく、自殺者の嘱託・承諾があるときは、嘱託・承諾殺人罪にあたる。いわゆる介錯(かいしゃく)などは、その例である。

5.  合意に基づく同死(心中)、すなわち、共同自殺を企てた者の一人が死亡し、他の一人が生き残った場合に、生き残った者を、本罪によって処罰しうるか。生き残った者の行為が、死亡した他の者に対する自殺の教唆・幇助や嘱託・承諾殺人行為にあたるときは、自分も自殺をこころみたというだけその犯罪性が消滅するものではないから、本罪または同意殺人罪の成立を認めるべきである(いわゆる無理心中は、殺人罪にあたる)。

 

参考文献:大塚仁著「刑法概説・各論(第三版増補版)」有斐閣著