{CCB710EE-D1B1-4A83-9D27-09B93E645480:01}



『コウノドリ』第1話、放送になりましたね。


未受診妊婦は私たちは普段「未妊健」とも呼んでいますが、
ドラマのように想像以上のリスクがあります。

未受診妊婦でもやはり妊婦さんは妊婦さん。
いつかは子供が産まれる時がやってきます。

つまりお産の時が来るわけですが、やはりたいていの妊婦さんはその痛みや恐怖・不安感などから救急車を呼ぶ事が大半です。
(稀に自宅や公衆トイレなどで産み落とす人も聞かれますが、、、)

初めて会う未受診妊婦をスムーズに受け入れる産婦人科の病院は実際に少なく、
受け入れ先が見つからず立ち往生している間にもお産が進んでいるという事が少なくありません。

私が務める病院はドラマのペルソナ病院のような周産期母子医療センターであり第三次救急の病院でもありますから、病棟が空いている限り未妊健をすぐに受け入れるようにしています。
それが周産期母子医療センターの役割の一つでもあるからです。
たまたまなのか、ここ半年から一年、未受診妊婦が比較的多く搬送されてきています。

受け入れる病院が少ないのは医者がそのリスクから自分の身を守りたいからではありません。

産科医と新生児科医は母子共に「元気に」お産が終わる事を第一に考えます。
これから母と子と、その家族が一緒に歩む長い人生が待っているのです。
「命が助かればいい」という医療では無いと私は思っています。

その上で、その妊婦さんの体や子宮の中の事を知らないという事は大きなリスクになります。


ドラマの中では感染などを取り上げていましたが、他にもリスクはあります。

まず赤ちゃんの週数がわからない→未熟児かもしれない、生まれた直後から処置が必要かもしれないため、前もってその準備が必要になります。
週数が臨月になっていたとしても、産まれた途端に手術などすぐに対応が必要とされる病気を赤ちゃんが抱えている事もあります。これも産まれる前から把握していれば、場合によっては麻酔科医や小児外科医などとも連携をとって前もった準備が可能なのです。
赤ちゃんに異常が無くても、お産自体が実は危険度の高いものであることもあります。
ドラマの中では臍帯脱出(私達はサイダツとよんだりもしますが)でした。
他にも胎盤の位置異常などがあれば通常の下からのお産がもともと不可能であったり、すでにお産前からかなりの多量出血が予測されることもあります。

これらは「その妊婦さんの体を知らない」というリスクのうち一部にすぎません。


未受診妊婦を受け入れるということは、これらのリスクに直ちに対応できる準備がより常に出来ている必要があるのです。

受け入れられる病院が限られてくる理由がわかるかと思います。


未受診妊婦の理由は様々です。
ドラマの中のように家族背景や社会的理由、経済的理由からそうなってしまう人もいますが、
意外にも、今までにお産を何度も経験しており「妊娠・お産に慣れてしまった妊婦さん」であったりもします。
「上の子の事で忙しくて」という人もいます。
救急車で運ばれてきて入院した妊婦さんの中には、上の子の事を心配し過ぎて点滴を自己抜去して病院から脱走してしまったりする人達もいました。

しかしどれも「妊婦健診を受けない・安全に妊娠出産するための医療を受けない=赤ちゃんの命を十分に大切に考えていない」という理由にはなりません。

臨床をやっていると、「今現実に妊婦さんの目に見えない分、お腹の赤ちゃんがないがしろにされている」と感じざるを得ない時が少なくありません。

赤ちゃんも22週を過ぎれば一人の人間と見なされ、人権があります。

安全に産まれてくる権利を、例え親であっても奪ってはならないと思います。

母子共に「元気に」お産を終えられるよう、妊娠健診は受けてくださいね。




※本ブログの内容はいち産科医としての個人的な意見・感想です