Zとのやり取りの後間もなくして仲居さんがお布団を敷きにきてくれた。

山手側のホテルだったので、麓に行くには道が限られており下手に散歩に行き力士たちが乗っているバスとすれ違うわけにはいかずホテルから出られない。
勿論、ロビーをウロウロできないし、お風呂に入っていないので敷いてもらったお布団に寝転がる事もできない。

元々ホテル等では周りの音が聞こえないように見ていなくてもTVをつけていたが、Zに「すぐTVつけるよね」と消されたことがあり、Zが来た時消し忘れている事がないようつけるのをやめていた。

その為、静寂の中正座をして机に向かいただiPhoneをさわる。

暇。

(めっちゃ暇や…。ホテル着いてご飯食べてから来るって言うてたけど、何時になるんやろ?もう20:00やん…)と思っているとZから連絡がきた。
20:09『今ご飯食べた!21時くらいに部屋行くね』と。




(お風呂入ってから来るんかな?ほな、私もお風呂入ってしまお)と返事をしようとすると
20:11『やべー。2人に捕まった』と続けて届く。






(この一瞬で何があったん?)と思いつつLINEをする。

既に植田や北村関と一緒にいるのなら不平を言ってもしかたないと、また良い人ぶった返事をしてしまう。
本当は(そんなん断ればいいやん)とか(21時半って何で今の時点でわかるん?前その2人とご飯行くと長い言うてたやん!ほんまにその時間に終わるん?)とかもっともっと色々な事を思っていた。
心はいつも正直なのに言葉や文字で隠してしまい、結局自ら猜疑心でいっぱいにさせる。

(もうしゃーないしお風呂入ろ。明日はゆっくりできるって言うてくれてんねんし!!)
気持ちを切り替え浴室へ向かった。
長距離移動の自分のためにと用意していた入浴剤のおかげで心身ともにリフレッシュできた気がする。


21:30になってもZから連絡が来ない。

(普段あれだけ携帯触ってんのに21:30過ぎても連絡できひんの?植田も北村関もZが常携帯触ってるの知ってるねんし一言LINEぐらいはできると思うねんけど?)と思っても待つしかできない。



21:40になり『今終わった!』『開けといて』と連絡がきた。

返事を!と分かっているが親指が動かず返事ができない。
早く会いたいのに、どこか何かがモヤモヤしていた。
するとZから着信があり「起きてる?遅くなってごめんね」と言われ、なるべくいつも通り「起きてる。今返事しようとしてた」と伝え、解錠し終話する。




終話後すぐにZは部屋に来た。
「遅くなってごめんね。もう最悪だよ。飯食い終わったら植田と北村に捕まってさ」「勝手に行けばいいのに!」「何で俺誘うんだよ」「俺酒飲まないし損じゃん」等不満を口にする。
「うん」「お疲れ様」「大変やったね」と、相槌を打ちながらZが脱いだ浴衣を受け取りハンガーにかけた。
Zは「酒飲むし長いし、お好み焼き食べたから浴衣臭くなったし本当最悪!!」と言いながら布用消臭剤を浴衣にかける。

かける。

かける。

以前からホテルのものは無料だからと、1回で全てを使い切ることもあると言っていた。

「いや、かけすぎー!」と少し引きつつ言う。
「いいじゃん、無料なんだから。…もう大丈夫かな?俺もうお好み焼きの臭いわからん!匂ってみて?」
「(浴衣に近付き複数箇所匂い)もう大丈夫やと思う」
「じゃあ、これくらいでいっかー。ねぇ、温泉行きたいって言ったら怒る?」
「んーん、怒らへんよ。温泉の方が疲れ取れるんやろ?行ってきて」
「ありがとう。なるべく早く戻ってくるからね。戻ってきたらお手入れしてね」と大浴場へ向かい、30分程度で帰ってきた。

「おかえり。洗顔もしてきた?」
「洗顔?お湯で洗った」
「洗顔料使ってないん?持ってきてるけど使う?」
「えーーーーー、めんどい」とわざと嫌がる素ぶりをしたのが分かった。
「ほな、もうこのままする?」といつもみたいに洗顔のお願いはせず進めようとすると「嘘、嘘!洗顔してくるから待って」と自ら洗面室へ向かう。

戻ってくると布団に寝転び「準備できたよー」とまるで子供のようで可愛い。
顔のお手入れが終わると、バックハグをされている状態で寝転びまったりした時間を過ごせていた。



お互い穏やかに話し、言い合いとか癪に障るような言動があったとかでもなく、それは本当に突然始まる。

「遠かったでしょ?」と聞かれ「うん。Q市内寄ったりしたから余計遠回りしちゃったし」と答えると
「よくこんなトコまで来たね。頭おかしいんじゃないの?」と言われ「は?」と聞き直すと、やはり「よくこんなトコまで来たね。頭おかしいんじゃないの?」とZは言う。