単なる役立たずの老いぼれだ。
「柏手(かしわで)の鉄」などと呼ばれたこともあったな。
本当に美味いものを食べると、
思わずパァン!と柏手を打ってしまうからだ。
わしが柏手を打った店は未来永劫、商売繁盛。
そこに居た者にも、多大なご利益をもたらしたものだ。
その分、敵も多かった。刺客に日本刀で斬られたわしは、
奇跡的に一命を取り留めた。
だが、天がわしに与えた柏手を、すべて打ち尽くしてしまった。
詳しくはPart1、Part2、Part3を読んでほしい。
柏手の打てないわしなど無価値。
意味もなく、ただ呼吸を続けるだけの存在なのだ。
ぼんやり歩いていたら、路上看板にぶつかった。
ん?こんな所にラーメン店があったのか。

そういえば、この三日間、ろくに食べてなかったな。
何か腹に入れておくか。
「ご主人、コク味噌ら~めん(720円)を頂こう」
縮れ麺かストレート麺かを選べるので、縮れ麺を指定。
カウンターだけの細長い店だが、とても繁盛しているな。
客A 「おい、あれ柏手の鉄じゃないか?」
客B 「まさか!死んだって噂よ」
そう、いまのわしは死人も同然。どうか放っておいてくれ。
コク味噌ら~めんが運ばれてきた。まずはスープから。
ほお~う!味噌のコクの後から、上品な甘さが追ってくる。
野菜か?野菜の甘さを引き出しているのか?
麺はモチモチと歯応えがあって、美味い!
スープとのバランスも素晴らしいな。
これほど完成度の高い一杯には、なかなかお目にかかれないぞ。
むう、手が・・・勝手に・・・開く。
もしやっ?わしに柏手を打つ力が、まだ残っていたのか?
打て!わしの手。打てえええええええええええっ!
ぺちん!
だ、駄目かぁぁぁ・・・

勘定を済ませて店を出た。
思えばこれまで、人様が丹精込めて作った料理を
やれ美味いの不味いのと、好き勝手に判定してきたが、
なんて傲慢で無責任な行為だったのだろう。
「よくぞ、気づいたな。鉄!」
突然、天からの荘厳な声。
あ、あなたは・・・・・・・神か?
神 「いかにも。鉄よ、お前にもう一度、能力を与えよう。
これからは謙虚な気持ちを忘れることなく、
“食の下僕”として働くのだぞ!」
わし「承知つかまつり候!神よ」
神 「行け、鉄!行くのだっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
神から新たな使命を与えられたわしは、精力的に食べ歩いた。
いままで以上に「美味い!美味い!」を連発した。
だが、行く先々の店で「出入り禁止」を食らってしまうのだ。
美味いものを食べると思わず、
ファイアーダンスを踊るカラダにされたせいで・・・
完
[店舗データ]
店名:道元
住所:広島市中区大手町4-2-25(地図)
営業時間:11:30~15.00 17:30~21:30
定休日:1、8、18、24日、第2日曜
訪問日:2014/12/30




