彼女の通っていた大学の卒業式は3月中旬でした。

新型コロナの影響で大都市圏では開催を中止する大学も出ていましたが、この地域では、感染者も殆ど出ていなかったので予定どおり執り行われることになっていました。

 

卒業式の前日、彼女から連絡がありました。

X「明日、会えませんか?」

私「卒業式の日だよね? お母さんと一緒じゃないの?」

X「母は、体調不良で来られなくなったの… だから会いたい! 卒業式にも出て欲しい!」

私「本気で言ってるの?笑 会うのはOKだけど、さすがに卒業式は難しいよ。笑」

X「半分本気です。笑 でも、会えるならそれだけでもいいです!」

私「何時にする?」

X「□□時以降なら大丈夫! 家にきて欲しいんだけど…」

私「家に帰ったら連絡して! そうしたら向かうよ!」

 

彼女の住んでいたアパートは、かなり前に教えてもらっていました。

たまにでしたが、彼女が料理を振舞ってくれることがあり、その時は、家の中に入れてもらったりもしました。

それであれば、彼女の部屋で大人も…といきたかったのですが、残念ながらそれは一度ありませんでした。

なぜなら、そのアパートは、とてもJDが住んでるとは思えないような程ボロボロで、部屋の壁も薄く、隣の部屋からの音も筒抜けでしたので…お察しください。笑

ちなみに家賃は29,000円/月でした。

 

3日後に会う約束をしていましたが、急遽翌日も会うことに…これも当時はよくあることでした。

 

卒業式当日の午後、彼女から帰ったとの連絡があり、家に行ったら…袴姿で待っていてくれたのです。

 

私「!! とても素敵…綺麗だよ!」

X「母が来れなくなったのが理由になったけど、〇〇さんに見てもらいたくて…」

私「本当に綺麗だよ! 卒業おめでとう…本当に良かった!!」

X「ありがとう。 卒業できました…本当にありがとうございました…」

彼女の眼から大粒の涙が溢れ、深々と頭を下げたのです。  

 

そんな彼女を抱き寄せて、私も感極まり涙ぐんでしまいました。

人前で涙を見せたのは父の葬式以来…20年以上も前です。

あの時は悲しみの涙でしたが、今回はうれし涙…涙の意味が違います。

 

私「4年間、大変な時期もあったよね…こうやって袴姿を見ると、少しだけかもしれないけどXさんの役に立てて本当に良かった…そう思っているよ。」

X「少しだけなんかじゃないです。 卒業できたのは、いつも私を近くで支えてくれた〇〇さんのおかげです。」

私「……本当によかった…」

暫く無言の時間が過ぎました。そして…

 

私「この後どうしようか? 出かける?」

X「うん! でも、その前にお願いが…」

私「何?」

X「この袴、レンタルなので今日中に返却しなきゃならないの… だからお店まで連れて行って欲しいんだけど…」

私「笑笑笑! もしかして、そのために俺を呼んだ?笑」

X「それは無いです! 本当に見てもらいたかったんです! でも…ちょっとだけありました…笑」

 

彼女をお店まで連れて行き、その後はいつもと同じように二人の濃い時間を過ごしました。

 

私の引っ越しまであと10日。

それまでに会う予定が決まっているのはあと2回…この時点では私の決断をまだ彼女に話していませんでした。