『実家の仏壇を捨てる』
弟のこの言葉に絶句した私。
血の繋がる弟だが、
その人間性に疑問が浮かぶ。
捨てると言えば、またお人よしで責任感の強い私が代わりに仏壇を引き取るとでも思ったのか。
『うちでは祀れないよ。神道だから。』
婚家には、焼香も仏花もない。
榊を飾り、柏手を打って手を合わせる。
私の気持ちは揺らいだ。
住み慣れた自分の家に位牌や骨になっても戻れないなんて両親が気の毒だ。
だが、患う難病やガンの悪化や再発で私が死んだ時に、子ども達が引き継げないようなことに今から着手するのは慎むべきだ。子ども達に迷惑をかけてしまうのは避けたい。
両親の位牌は引取らない。
私は自分の気持ちにブレーキをかけた。
ふと、偶然に何気なくみた昔のドラマの場面が思い浮かぶ。
「夢千代日記」
今も映画主演を続ける品格のある女優が主人公を演ずる。
胎内被爆のため、余命を知らされている芸者。
儚げだが芯の強さを秘めた主人公はこの女優の当たり役と放送当時言われてたらしい。
劇中、主人公の旧知の芸者が同棲相手を殺め主人公のもとに逃げてくる場面があった。
この逃亡者が風呂敷に包み、大切に持ち歩いていたのが両親を祀る仏壇。
大きな箱型の仏壇。
逃げるのに邪魔だったが、この仏壇を捨てるに捨てられなかった、と涙を流しながら笑っていた。
貸家にするにしても実家の仏壇はそのままにしておけないのだろうか?
コンパクトな仏壇を用意し、
転勤先の住まいで
せめて両親にだけでも手を合わせてくれないだろうか?
義妹が率先してこの先
両親の冥福を祈り続けてはくれないだろうか?
いや。それは100%望めない。
そのことを
私はある出来事から思い知らされていた。