入る限りのベッドを配置したかのような狭い病室。医療者がすれ違うのにも遠慮しあうようなコンパクトな空間。
ベッドに寝かされた人たちが虚な目でワタシを見つめた。
その片隅に母はいる。
管で繋がれ
目を閉じて顎を上げたまま口を開けている。
髪は後退し頭頂部まで皮膚が現れている。
あんなに薄かった眉が不思議と黒黒と生えている。
ゆっくり顔を近づける。
今この場で
この言葉をかけられるのは
ワタシだけだ。
『お母さん』
母はうっすら目を開けた。
脳出血の影響で瞼の下の眼球は不規則に動いた。
『お母さん』
母の口から
あーと吐息が漏れた。
ワタシはどこでどう間違えてしまったのか?
いや、今のこの姿は必然なのか?
母の介護についての自問自答は
この先ワタシが生きている限り
繰り返されることだろう。
最期に再び
『お母さん』
と声をかけて
病室をあとにした。