前の子が流産で、待望の長子としてこの世に生をうけたのでしたよね、わたしは。
今あなたの目の前にいても、娘だと思ってはいないですよね。
つい『お父さん』と呼ぶと、少し困ったような目をしますものね。
あなたが認知症で良かったと思えることが一つだけあります。
それは、病でやつれたわたしを見ても心配したりはしないこと。
もしもあなたが正気で、わたしの病を知ったなら。あなたの介護がきっかけで心身を病んできたと知ったなら。
人一倍責任感の強いあなたは、
どれほどの苦しみを味わうことでしょう。
どれほどの悔恨の涙を流すことでしょう。
あなたが認知症で、ほんとうに良かった‥‥