決めてしまえばあっという間だった。

研究所の人たちには「こっちで産めばいい」とか「シングルでも大丈夫」とか無茶苦茶なことを言われたりしたが、最終的には沙紀を温かく送り出してくれた。

心残りがないと言ったらうそになる。

ただ、妊娠したことで沙紀の中の優先順位がはっきりしたのだろう。

 

日本に帰るとやることがいっぱいだった。

「今すぐ!今日入籍する!」という槙を落ち着かせ、まずは両家に挨拶に行った。

 

槙の母親は、さすが男の子3人を育て上げただけのことはあると思わせるような、肝っ玉母さん風のステキな女性だった。

兄2人も槙に似て自由奔放な人たちだったが、なぜか父親だけは寡黙な九州男児のような人で、沙紀は滞在中ほとんど言葉を交わすことはなかった。

突然の話にも全く驚かず、槙家の皆は温かく受け入れてくれた。

「幸ちゃんはこの中で育ったんだね。」

沙紀はこれから二人で作る家庭が、こんな風ならいいなと思った。

 

一方、沙紀の実家ではひと悶着あった。

父親が猛反対をしたのだ。

「こんな安定しない職業の男なんて許さん!!妊娠までさせおって!!!」と一度目は家にも入れてくれなかった。

だが、槙は何度も家に通ってくれた。

そのうち槙の魅力に懐柔された母親が「お父さんいないうちに」と家に入れてくれ、鍋をみんなでつついていた時に帰ってきた父親と対峙した槙。

体育会系ならではの大声と根性論、最後はお決まりの土下座で、父親はとうとう根負けした。

後で聞いたところによると、どうやら沙紀の母が槙の活躍する試合を毎日それとなく見せてくれていたようで、父親の槙に対する態度が徐々に柔和していくのを沙紀は感じていた。

 

 

「これ、どっちにする?」

結婚式に使うウェルカムボードを作ってくれているのは、赤と白の造花を比べて首をひねっている石田晶だ。

先シーズンに故障した夫の涼は、槙と庭でビールを飲みながらすでに真っ赤な顔をしている。

「私たちは式挙げてないからな~。こういうのいいね。」

幸い涼の故障はそれほど重症でなく、現在はリハビリ中だ。

憂いを全く感じさせない晶だったが、かなり気苦労はあるのだろう。

沙紀が困ったときはこうしていつも助けてくれる晶を、今回近くで支えられなかったことに申し訳なさを感じる沙紀。

なんとなく感じ取ったか、晶は沙紀のお腹に手を当ててそっと言った。

「お母さんになったら、守るものいっぱいできるよー!今は自分のことだけ考えてればいいからね。」

槙を通じて、たくさんのやさしさに触れ合えていることを肌で感じる沙紀。庭でビールをおいしそうに飲む槙を見て、思わず微笑みかける。

「沙紀・・・・まるで受胎マリアだ。」

「のろけてんじゃねーよ!」

後ろから涼に頭をはたかれた槙は、あぶねーとこぼしかけたビールを飲みほした。