試合後のインタビューはコートの隅だが、今日はいつもと違う雰囲気で槙はソワソワしながら好奇心を隠せない様子だ。

近くのものを触ろうとしたり隣の部屋をのぞこうとする槙を必死で止めるのは沙紀。

 

ここは出版社の一室。

インタビュアーとカメラマンをはじめとする数人のスタッフに見守られる中、二人の取材が始まった。

 

「まずは槙選手、最後の試合お疲れさまでした。見事有終の美を飾りましたね!」

「ありがとうございます。俺はいつも元気印なんで!!」

いつも通りの槙の勢いに、スタッフたちがどっと笑う。

 

「40歳という、アスリートとしては限界に近いといわれている年齢まで現役で来れた秘訣はあるのでしょうか?」

ニカっと笑う顔には、年齢とともに刻まれた皺が見られるが、表情は昔のままの少年そのものだと沙紀は思う。

「それはもちろん!隣にいる妻のおかげだと思ってます!!!」

 

 

子供が生まれてから、二人の生活は激変した。

まずは初めての妊娠が双子だったこと。

出産自体がシーズン始まったばかりだったこともあり、二人ではどうにもならずお互いの親がかわるがわる援助に来てくれた。

それでも、槙は本当に頑張ってくれたと沙紀は思う。

夜中は寝られないから別々に、という沙紀に「俺もミルクあげたい!!」と突っぱねた。

ミルクを飲みほした赤ん坊とともに床に転がっている槙を見たことが何度あるだろうか。

眠かっただろうが、全く弱音を吐くことなくシーズンを終え、きっちり成績を残した。

 

優勝した試合では、会場に来ていた子供たちを両脇に抱えてコート内を走り回り、観客を沸かせた。

 

子供たちが3歳になると、槙は家でバレーボールを教えた。

彼らも槙に似て快活で、家の中にバレーボールがあると追いかけたり投げたりと大騒ぎだった。

当時3人目を妊娠していた沙紀は後をついていくのに必死だったが、それ以上に幸せだった。

 

 

「・・・きさん・・・・は・・・・・」

 

昔を回想していた沙紀は、インタビュアーに話しかけられていることにはっと気が付いた。

 

「奥様の沙紀さんは現在も研究所にお勤めだそうですね。ここ数年でも何度か論文が認められているとのことですが、家庭と仕事の両立はどのようにされていたのでしょうか?」

 

少し考えて、沙紀はゆっくりと話し始める。

 

「まず仕事が続けられたのは、単純に好きだったからですね。そして家庭もそうです。好きなものに囲まれて暮らしていると、忙しさも楽しくなっちゃうんですよね。まぁすごく大変な時期もありましたが、そこは主人が支えてくれましたので。」

 

それを聞いたインタビュアーは驚いた様子で続けた。

 

「槙選手が支えるというのは・・・少し想像が難しいですね!なんというか、自由奔放な印象の選手です。」

 

「そうですね。主人は楽しいことを自由にするのが好きですし、私にもそれを許してくれます。それをお互いにサポートしあうという形なんです。」

 

隣で黙っていた槙だったが、とうとう我慢しきれずに前に出始める。

 

「俺のインタビューなんだから俺にも聞いてよ!」

 

いや、さっきまでいっぱい質問しましたよね?

そんな表情で固まるスタッフであったが、そこはプロらしく違う質問に切り替えた。

 

「では槙選手、今回引退か別のチームへの移籍かという選択を迫られました。引退を決意されたお気持ちをお聞かせください。」

 

珍しく黙り込む槙。

目を閉じて苦悶の表情で考え込んだあと、あっけらかんと言い放つ。

「限界を感じた。」

そして目をキラキラさせて話を続ける。

「どうせ自分ができないんだったら、俺より上をいく次の世代を育ててみたいなって思ったんだよね!だからこれからバレーボール教室をやることにした!いずれは全国展開して、俺のチーム同士で優勝争いをさせてみたい!!」

 

槙は1か月ほど前、引退を悩んでいた時期があった。

庭でぼんやりと子供たちのパスを見ていた槙に、沙紀がコーヒーを手渡し隣に座った。

「どうしたの?」

「やーー、この前の話どうしよっかなって。」

沙紀はテーブルにコーヒーを置き、槙の顔をこちらにグイっと向けた。

「幸ちゃんはどっちがやりたいの?どっちでも私はサポートするよ!」

槙は数秒沙紀を見つめた後、ニカっと笑って子供たちの方に目を向ける。

「決めた!」

 

 

「俺も迷ってたんですよ。でも、ほんとにやりたいことなら応援するって、こいつがいってくれたんで。次の夢に向かって頑張ります!!」

 

沙紀と槙はお互いに顔を見合わせて笑いあう。

2人の笑顔は出会ったことのそれと、何も変わっていなかった。