数日後にアメリカに出発する沙紀の送別会だといって、槙がバーベキューがしたいと言い出した。
おそらく槙がただやりたかっただけだというのは皆何となく分かってはいたが、今まで沙紀とも仲良くしてくれていたチームメイトたちも集まり盛大に送別会は執り行われた。
バーベキューコンロの上にはジュージューと焼ける肉が並んでおり、その周りには肉の色が変わるのを心待ちにした大男たちが並んでいる。
「ちょっと!もう少し離れなさいよ!」
庭を提供している石田晶がトングを振り回しており、その後ろでは晶の娘である美優が母の真似をして木の棒を振り回している。
それを見ていた夫の涼が苦笑いをしながらうちわで炭を扇ぐ。
「わるいねぇ、騒がしい家族で。」
言いながらも、涼が妻と娘を眺める目はとても優しい。
「ところで」
涼が小声で沙紀に耳打ちをする。
「この前の騒ぎ、大変だったね。怪我しなかった?」
刃物が出てきたこともありチーム内でも問題になったようで、企業の偉い人が菓子折りをもって沙紀の家に来たのにはびっくりした。
「全然大丈夫です、逆にご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。槙さんちゃんと皆さんに謝りました??」
おどける沙紀をみて、涼は感心したように言う。
「しかし、沙紀ちゃんはほんとに強いよね。いや、槙の素行が悪いのは俺たちもわかってた。でも、あんな近場に手出してたなんてなぁ。。」
煙に目をやられたのか、軍手で顔をごしごしとこすった後、まじめな顔で続ける。
「あんなことあっても安心してアメリカ行っちゃうとか。ほんとにあいつのこと信じてるんだね。」
沙紀は空を見上げた。
綺麗な青空に、真っ白な雲がポツリポツリと浮かんでいる。
そこには、地元で見た薄暗い雲や雪の気配はない。
「槙さんは、すごい人です。いるだけで周りを元気にする、そんな人が自分の方を向いてくれてることが不思議なぐらい。」
沙紀は空に向かって大きく伸びをした。
「いつか、槙さんに『もういらない』って言われる日がくるかもしれません。その時に、ちゃんと一人で立っていられるようになりたい。そんな女でいたいんです。だから私は、アメリカに行きます。」
涼は隣で大きく笑った。
「やぁ、かっこいいわ!沙紀ちゃん。槙にはもったいないぐらい。」
涼の隣で肉をにらんでいた期待の新人の立石が、突然こちらを振り向いた。
「沙紀さん、かっこいいっす!!!」
そして片隅で味見だと肉をほおばっていた槙に大声で叫んだ。
「槙さーーーん!!彼女さんと別れたら、僕もらっていいですかーーー!!」
「ぬぁんだと???」
槙は急いで皿の上の肉をすべて口に詰め込むと、ズンズンとこちらに向かってくる。
「俺たちは別れねーよ!!ばーーか!!」
すごい形相で肉汁を飛ばしてくる槙に恐れをなしたのか、はたまたきれいなシャツを汚したくなかったのか、立石は後ずさる。そして立石がそこで大事に焼いていた肉をかすめ取ると、槙は空っぽになった自分の口に入れた。
「あーーーーーー!!槙さんひどいっす!!」
庭中が笑顔に包まれる。
1週間後にはアメリカにいるなんて、とてもじゃないけど想像できない。
でもこのぬくもりから飛び立たないと、理想の自分にはたどり着けない。
肉を口いっぱいにして満足した槙の腕をそっと触り、沙紀はささやく。
「槙さん、大好き」
「『幸ちゃん』だろ?また間違えたなー!罰として今日はエロいこといっぱいやらすから。」
ニヤリと笑う槙の背中を、顔を赤くした沙紀がバシッとたたいた。