沙紀は家のバスルームで無残に切られた髪の毛を見つめていた。

 

「あーあ、結構気に入ってたのにな。」

その部分をくるくると指に巻き付けながら、自然に涙がこぼれる。

 

槙と付き合い始めてから笑ってばかりで、自分が泣くことなんてもうないんじゃないかと思っていた。

でも・・・・やっぱりつらいや。

過去だとわかっていても、槙に優しく抱かれている女の子たちを想像するといてもたってもいられなくなる。

今はまだ自分の方を向いてくれている槙だが、まだまだ発展途上のプレイヤーだ。

これからどんどんファンは増えるだろうし、誘惑も今まで以上になるのは明確だ。

 

私は、いつまで耐えられるかな・・・・。

 

 

とりあえず明日の美容院の予約を入れ、ソファに座って温かいコーヒーを飲む。

不格好に切られた髪は、結んでしまえば目立たない程度だったことが不幸中の幸いだ。

 

そろそろ試合、終わったかな?

 

沙紀がちらりと時計を気にしたとき、玄関の鍵が開いて誰かがすごい勢いで入ってきた。

 

「え?試合は??」

戸惑う沙紀を、槙は怒ったような顔で力任せに抱き締める。

 

「終わった!ストレートで勝った!!」

答えを聞いて、ほっとする沙紀。

「お前が、会場にいなくて。不安で見に来た!」

ぎゅっと腕に力を込める槙の背中を、そっと触れるように抱く。

「だって、こんな髪じゃ恥ずかしいでしょ。・・・・ごめん、見られなくて。」

 

すると今度はべりっと自分から沙紀を引き離すと、同じ目線までかがんでいった。

「ほんとのこと言って。嘘はやだ。」

 

ぽろり

 

沙紀の目から涙がこぼれだした。

 

親指で拭っても拭ってもとめどなくあふれる涙を、槙はじっと見ていた。

「・・・・だ・・・・・・」

「ん?」

槙が聞き返すと、沙紀は途切れ途切れに話す。

「・・・やだ・・・。ききた・・・くない。槙さんが・・・・ほかの子に・・・・・やだよぉ・・・・」

広い胸にしがみつく沙紀の頭を、槙はよしよしとまるで子供にするみたいに撫でた。

「ごめんな。過去はさすがの俺でも変えられない!でも、」

沙紀の顔をつかみ、グイっと自分の方に向けて続ける。

「俺は死ぬまで、もうお前しか抱かない!!!」

そのまっすぐな目をみて、沙紀は信頼という言葉の意味を知った。

 

今の槙を、信じよう。

 

 

しばらく無言で抱き合っていると、槙がポツリと言った。

「俺、汗臭くない?」

その言葉に吹き出す沙紀。

「くさいよ!はやくシャワー浴びてきたら。」

服のにおいをかぎながらバスルームに向かう槙に、沙紀はそっと投げかける。

 

「その後で、話があるの。」