会場に着くと、すでにロビーは人であふれかえっていた。
槙のチームのホームゲーム、今日勝てば優勝決定戦に進める大事な試合だ。
たくさんのサポーターが詰めかけており、チームの人気がうかがえる。
ずいぶんギリギリになってしまったが、試合が始まる前にとトイレに向かう沙紀。
その後ろから数人のチームユニフォームを着た女の子たちが入っていった。
年は沙紀と同じかすこし上ぐらい、これから試合が始まるというのに彼女たちからは高揚感が不思議なほど感じられなかった。
手を洗っていると突然女の子たちに囲まれ驚く沙紀に、その中の一人が静かな声で言った。
「槙さんを独り占めしないで。」
それを合図に女の子たちが次々に沙紀を罵倒し始める。
「ブスのくせに」
「どうせ捨てられる」
「いい気になるな」
そのうちに手が出始めた。
沙紀のカールした長い髪がつかまれ、引っ張られる。
「やめて!」
沙紀は必死で振り払おうとするが、多勢に無勢だ。
トイレから出てきたほかの女性も驚いて出て行ってしまう。
どうしたらいいかな、痛みをこらえながらも冷静に考える沙紀だったが、目の前に光るそれを見て、体がヒヤッと冷たくなった。
「お前にはもったいねーよ」
背の小さい女の子が般若のような顔で沙紀の髪をつかみ、大きなはさみで一束を切り落とした。
きゃーーーーーーーーーーーーー
トイレの入り口に集まっていた野次馬の一人が大きな声を上げる。
女の子たちはその時、ようやく多くの人に見られていると気づき、手を離した。
ところが突然入り口付近が静かになる。
槙が来たのだ。
ここ女子トイレ!沙紀が心の中で冷静に突っ込んでいる中、槙は女の子たちの前に立ちはだかった。
「俺の彼女に、なに、してんの??」
大声で陽気な槙しか見たことがないのだろう、彼女たちは普段とはあまりに違う槙を見て青い顔で押し黙った。
「お前らはそのユニフォーム着る資格ねーよ。」
笑顔から最も遠い表情で静かに怒りをこらえる槙の背を、沙紀はそっと触った。
「私だいじょうぶだから。コート、戻って。」
すると、女の子の一人が震える声で叫んだ。
「何よ!彼女面して!私だって槙さんに抱いてもらったことあるんだからね!」
するとほかの女の子たちも口々に叫びだした。
「1人1回だけって槙さんがいうから!」
「私たちはちゃんと約束守ってたのに!」
「どうしてあんただけ!」
混乱する中駆け付けた警備員に彼女たちは連れていかれ、沙紀と槙が残る。
槙は不安そうに沙紀をみた。
「あれは・・・昔のことで。沙紀と付き合い始めてからは全然なにも・・・・」
言い終わる前に沙紀は槙の腕にそっと触れて、柔らかく笑った。
「わかってる。試合頑張って。」
慌てて探しに来たスタッフに引っ張られながら、槙はコートに戻っていった。