2人では食べきれないぐらい作ったはずだ。

それなのになぜ・・・?

 

食事を始めてから1時間もたってないのに、すべての皿はほぼ空だった。

「沙紀ちゃん、料理上手なんだなーーー!!」

手を合わせて丁寧にごちそうさまをすると、槙はお土産代わりに買ってきた焼酎の瓶を取り出す。

キッチンでめぼしいグラスを2つ見つけてきて、沙紀に渡し注いでくれた。

 

「沙紀ちゃんさぁ、なんで俺が腹ペコってわかったの??」

グビリと一口飲んだあと、槙が不思議そうに尋ねる。

「来る時間わからなかったので、もしごはん食べてなかったら‥と思って。」

「じゃあ飯食ってきてたら、これどうしたの?」

「・・・明日私が食べます。」

 

槙はじっと沙紀を見つめた。

 

「それってさぁ、疲れない?」

 

沙紀の胸が、何かに突き刺されたように痛んだ。

雪村と別れる直前、東京に来てくれた雪村にも、同じことを言われた。

 

「沙紀といると、最近ちょっと疲れる」

 

なかなか会えない中、自分でも頑張って時間を作ったつもりだ。

たまにしか会えないならと自分の予定を何とか調整し、一緒にいるときはなるべく雪村に合わせていたのだと思う。

それが、疲れるんだと。

 

無言になった沙紀に、槙はあっけらかんという。

「俺はさぁ、言いたいことは言うし、言ってほしい!なんかこう・・・ため込んどくの嫌なんだよな。ムラムラするっていうか。」

 

ムラムラじゃなくてモヤモヤですよね、と心の中で突っ込みながら沙紀は考える。

 

そうか、もう我慢しなくていいんだ。

 

「だから沙紀ちゃんも、嫌だったら嫌ってちゃんと言ってくれ!やりたくないことは、やらなくていいから!」

そういってなぜか胸を張る槙をみて、沙紀は自然と笑顔がこぼれる。

 

どうしてかな、槙といると笑顔ばかりだ。

 

「じゃあ、来るときはちゃんと時間を言ってください。」

わかった!といって槙は近くにおいてある紙に自分の連絡先を書き始めた。

 

槙が持ってきてくれた焼酎を飲みながら、今日の試合の裏話やチームメイトの失敗談などを聞いていたら、あっという間に終電近くになる。

 

「槙さん、明日お仕事?」

「いや、俺やすみ!」

「私は明日学校なので、そろそろ帰ってください。」

笑顔でバッサリという沙紀に、槙は笑いかける。

「そうだ!それでいい!!」

槙は床から立ち上がると、帰り支度を始めるでもなく沙紀の隣に座った。

 

「でも俺は帰らない!」

 

沙紀は、いつの間にか槙に組み敷かれていた。

 

「いやだったら言っていいって、さっき言ったのに!」

 

「物事には、交渉も、大事だ。」