ロビーに戻った沙紀を見つけた林は、ものすごい速さで近づいてきた。

 

「え?なに???槙さんとなんかあったの???」

せめて関係を持ったことだけは伏せたい。沙紀は槙と去年会ったこと、その時に連絡先を交換しなかったことを簡単に説明した。

 

「そういうことだったのか~。すげぇ顔でお前のこと追いかけていくから、今頃食い散らかされてバラバラ死体になってたらどうしようかと思ったわ!」

 

バラバラ死体はないにしても、食い散らかされる可能性は、まだ、ある。

 

「会っただけで連絡先教えとかないと、槙さん怒んのか・・・。やべ!俺も認識されたよね??伝えといた方がいい??」

見た目からは想像がつかないぐらい小心者の林がオロオロする中、沙紀は今夜のことで頭の中がいっぱいでロビーの片隅から刺さる複数の視線には気が付いていなかった。

 

 

ピンポーン

 

来た!

沙紀は飛び上がるようにソファから立つと、恐る恐る玄関に向かう。

ドアに近づいたとき、今度は続けて2回インターホンがなり、その後「沙紀ちゃーん!!」という槙の大きな声が聞こえた。

急いでドアを開けると、大きなスポーツバッグを持ってなだれ込むように入ってきた槙が無遠慮に奥へ進んでいく。

 

「なんかうまい匂いする!!」

キッチンまで入ってくると、グツグツと音を立てていた鍋のふたを開け、のぞき込む槙。

「これ何?」

「ロールキャベツ、です。」

「食べていいの??」

「えと、はい。」

「じゃあ俺先に風呂入ってくる!タオルは持ってるから大丈夫!」

廊下を逆戻りし、途中のドアを一つずつ開けながらついにバスルームを発見し中に消えていく。

 

はぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー・・・。

 

なんて嵐のような人なんだろう。

圧倒された沙紀は、壁にもたれかかったまま座り込んだ。

 

 

ミーティングが終わるのって何時なんだろ?

ほんとに来るのかな?

あまりにも不確かなことが多すぎて槙に連絡したいが、沙紀は彼の連絡先を知らない。

そしていつまで待っても向こうからの連絡は、ない・・・。

 

時間的にごはんって・・・食べるのかな?

お店どんなとこがいいかな?

いや、でも試合の後だし疲れてるよね??

 

雪村の時も、と沙紀は思う。

気持ちを伝えてくれなかったから、こちらで勝手に思いを巡らせていた。

嬉しそうな顔、ちょっと困った顔、雪村の表情をみて沙紀は自分の行動をきめていた。

 

だから槙のことが何もわからない今は、あらゆる状況でも対応できるように用意を怠らない。

こういうのは、慣れてる。

 

「でたーーー!!」

お風呂から出てきた槙が、そのままリビングへ移動しTシャツと短パンでソファに寝転がる。

まるで自分の家にいるようなくつろぎ方で、思わず笑った沙紀に槙が呼びかける。

「ロールキャベツ、たべたい!!!」

はいはい、と沙紀は食事の用意に取り掛かった。