「やばかったなぁ~!お前、優勝決定戦も来る?」

 

いまだに興奮が冷めやらない林をなだめ、出口へと足を進める沙紀。

試合後は選手たちがファンサービスを行っておりざわついている会場に、突然叫び声が響き渡った。

 

一瞬しーんと静まり返る会場。

 

沙紀がコートの方に目を向けると、こちらを指さす槙がいた。

 

「みーつーけーたーーーぞーーーーーーーっ!!!!」

 

叫ぶのとほぼ同時に、驚く観客をかき分けて槙がこちらに走ってくるのが見えた。

 

どうすべきか一通り考えたが、これしか思いつかない。

 

 

逃げよう。

 

 

理由はよくわからないし、自分が標的かどうかも定かではない。

ただ、「逃げた方がいい」と沙紀の本能がいっている。

 

いや、まてよ。

ここは2階席、槙がこれるはずはない。

 

思いとどまり、一度振り返る沙紀の目に映ったのは、2階席を区切る柵によじ登ってくる槙だった。

 

周りの観客は何かのパフォーマンスだと思っているのか、笑いながら指さしたり手をたたいたりしている。

いつもの槙のイメージからは想像の範疇なのだろうか?

 

沙紀は本当に怖くなり、一目散に逃げだした。

 

1階へ続く階段を急いで下りた沙紀は、人波をぬって速足で会場の陰を探す。

そしてたどり着いた先はトイレの先にある非常用階段の下だった。

 

 

ここならきっと大丈夫。

息を整えながら沙紀は考えてみる。

自分はいったい、槙に何をしてしまったのだろう?

もしかして、1年前のあの日に?

酔っぱらって大事なものを壊しちゃった??

 

必死で考えを巡らせている沙紀は、後ろから忍び寄る影に気づくのが遅れた。

 

嫌な予感がして後ろを振り向くと、すでに青筋を立てた槙がそこに立っており逃げ道をふさいでいたのだった。