槙の部屋はお世辞にも綺麗とは言えなかった。
リビングの床にはトレーニング用のダンベルが散乱しており、脱いだ服もあちこちにかけてあり雑然としている。
しかし、キッチンだけは違った。
おそらく料理をするのだろう、いろいろなスパイスがラックにまとまっており、今朝使用したであろうフライパンと皿がきれいにうつぶせに並んでいた。
真っ先にお風呂に走っていった槙は、しばらくするとタオルと着替えをもって戻ってきた。
「これ、俺のだから大きいと思うけど。乾くまで我慢して!」
お風呂に促される間も涙の止まらない沙紀を、困惑顔の槙はバスルームに押し込んだ。
「あの・・・お風呂ありがとうございました。」
子供みたいに泣いてしまいいたたまれない沙紀は目を合わせずにぺこりと頭を下げる。
部屋はすでに暖かくなっており、少しだけさっきよりも片付いていた。
「飲む?」
槙が缶に入ったビールを手渡す。
お礼を言って受け取り、恥ずかしさを隠すためにぐびっと飲むと少し冷めた酔いがまた回ってくるようだった。
「って、すでに酒くさかったのにまだ飲んで大丈夫??」
めまいがしそうになり、沙紀は面白そうにこちらを見ている槙のとなりに腰を下ろした。
「・・・で。雪村は元気??」
何から聞いていいのかわからないから無難な質問をしたつもりだったのに。
沙紀の目からはまた涙が零れ落ちてくる。
「え??いや、あの・・・・」
「振られちゃいました。半年前に。」
沙紀はぶかぶかの槙のシャツで涙を拭きながら、ゆっくりと話し始めた。