肌を重ねるたびに、距離は近づいていく。
今日この瞬間も、雪村はとてもやさしい。
乱れた息を肌で感じる沙紀。
果てた後も沙紀の肌に唇を這わせ、愛おしさを隠そうともしない雪村に沙紀は幸せを感じながらも、すこし戸惑う。
東京に行きたいと伝えてから、彼は沙紀を壊れ物のように扱うようになった。
まだ、ずっと、迷い続けている。
自分の気持ちだけを押し通していいのか。
雪村と一緒にいることが最善策なのではないのか。
だがあれ以来、雪村は進路に関して口を閉ざしたままだった。
大会前の練習試合、沙紀はある人物に話しかけた。
隣接する強豪校のOBで東京のプロリーグに入団した槙幸太郎だ。
この高校とはたびたび練習試合を行っており、槙は雪村と仲が良かったため沙紀も何度か絡まれた経験がある。
そして当時、マネージャーの彼女がいたはずだ。
沙紀はたまたま母校の練習試合を見に来ていた槙に、藁をもすがる思いで声をかけた。
「沙紀ちゃーーん!元気?」
見た目も中身も元気100%という印象の槙に、ちょっとだけ落ち着く沙紀。
簡単な現状報告と世間話をしたのち、沙紀は本題を切り出した。
「あーー、あの子とは別れた!」
槙はあっさりとそういった。
「別に俺としては遠距離でもよかったんだけどね~。プロになるとファンもできるし、電話でいつも不安だとかいってて。そんである日『こっちに好きな人ができた』って振られた。」
あまりにあっけらかんと話す槙には、元から彼女に愛情なんてなかったのではないかと沙紀は勘繰る。
「つらくなかったんですか?」
沙紀が聞くと、槙はびっくりしたようにこちらを向いて、静かに答えた。
「つらくないわけないでしょ、すげぇ好きだったし。でも、お互いがお互いの気持ちを汲めないなら、いずれ終わる。それだけ。」
今の沙紀には胸に深く刺さる言葉だった。
「ま、雪村と沙紀ちゃんには関係ないわな!雪村もこっちの大学行くんでしょ?」
自分の希望を押しての遠距離恋愛、それがどこへ向かうのか。
沙紀の不安は増すばかりだった。
黙り込む沙紀の顔を、槙は覗き込みながら冗談めかして言った。
「自分の信じた道を進むことで、自ら責任を負う!それが正しい人間のあり方だーー!!」
笑いながら母校の部員に駆け寄る槙をみながら、沙紀は頭の中がクリアになっていくのを感じた。