体育館に行くと、雪村がドアの近くで水を飲んでいた。
沙紀に気が付くと「おつかれ」と軽く手を挙げる。
笑顔を向けながらそのまま通りすぎようと思ったが、雪村に服をつかまれる。
「進路指導だったんでしょ?どうだった?」
沙紀は雪村と目を合わすことができない。
後ろめたく思う必要はないとわかっていても、本当のことをなかなか打ち明けられないでいた。
「また帰りに話すね。」
ぎこちなく笑った沙紀を、雪村は不思議そうな目で見送った。
帰り道、朝まで降っていた雨がすでに上がり、きれいな星空が広がっている。
いつも通り家まで送ってくれる雪村の隣を歩く沙紀は、珍しく口数が少ない。
いわないと。
ちゃんと伝えないと。
「あの!」
「今日さ」
同時に口を開いた二人だったが、雪村はしぐさで先にと促す。
沙紀は重い口を開いた。
「雪村くんは第一志望どこにした?」
「K大。理工学部の物理学科に行こうと思ってる。沙紀は?」
一呼吸おいてから、沙紀が静かに話し始めた。
「私は・・・・・T大の理学部を第一志望にした。」
静かな帰り道に二人の足音がよく響く。
「私、前に宇宙が好きって話したことあったでしょ?中学の時に出会った大学の先生のことも。」
うつむき加減で頷く雪村。
「私、長谷川先生の研究室に入りたいの。昔からずっと夢だった。」
しばらく続いた沈黙の後、雪村が口を開く。
「それは、東京に行くってこと?」
沙紀は答えられない。
東京までは新幹線でも2時間はかかる、もしも合格したら・・・・離れ離れになる。
「こっちではできない勉強なの?」
雪村の疑問は当然だった。でも沙紀にも、確固たる理由がある。
「K大にも同じような研究をしてる教室はあるみたいで、紹介してもらって現役の先輩にも連絡をとってみたんだけど。全く違うって。私のやりたいことなら、T大に行った方がいいって言われた。」
足を止める雪村。
こっちにいてほしい、そういわれると思った。
でも雪村は私を引き寄せると、いつもよりほんの少し強く抱きしめて「わかった」といった。
反対されるよりも、苦しくて、雪村に力いっぱいしがみついた。