終業式が無事終わり、帰り道はまだ昼間だというのにクリスマスムード一色だ。
商店街ではサンタクロースの格好をしたおじさんが店の前でケーキを売ったりしている。
世間が幸せムードの中、なぜか不穏な空気をまとう制服姿の2人。

「楽しみにしてるから」
あの約束の日は、今日この日だった。ところが隣を歩く雪村は、いつもに増して陰鬱な様子。
このままではよくないと思った沙紀が話しかけたりしてみるものの、雪村には取り付く島もない。
雪村が怒っている理由は、2週間前の卒業式にさかのぼる。


お世話になった三年生の先輩とは、涙のない笑顔いっぱいの別れだった。
それぞれがそれぞれの道に進む、そして残された者たちがその後を継いでいく。
ただそれだけのことだと、元キャプテンの西野は言った。
もちろんその後、ほかの3年たちに盛大な突っ込みを受けていたが。

元マネージャーの三杉麗は、晴れ晴れとした顔でまだ寒い空に向かって叫んだ。
「よーやくだよーーーーー!!!」
みんながよくわからないという表情を見せる中、麗は傍らで涙ぐむ沙紀と璃子に小さな声でつぶやいた。
「ようやく吉井コーチの彼女になります!」

え???
聞き間違いかと思った。

吉井コーチとは男子バレー部のコーチをしてくれているOBだ。
見た目はお世辞にもイケメンとは言えないけど、指導においては厳しい中にも愛情がしっかり感じられる。とても素敵な大人だと思う。
いやいやいや、でもよ?
沙紀は混乱の中考える。
麗先輩といえば体育祭のミスコンで圧勝するぐらいの美しさ、さらには学業もトップクラスで地元の有名大学に現役で合格しちゃうぐらいな、いわゆる雲の上の方なわけで・・・。
なぜ吉井コーチ・・・・?
まさか、洗脳?脅迫??犯罪???
!!!!!!

2人があらぬ方向に妄想が膨らんでいることに気が付いたのか、麗は笑いながらささやく。
「1年の時から何回告白したかわかんないぐらい。ずっと好きだったんだけど、高校生と付き合うつもりはないって取り合ってもくれなくて。」
でも、もう違う。

「知らないでしょ?吉井コーチの魅力。私は3年間ずっと一緒にいて、ずっと見てきた。」
麗先輩の横顔が、とても大人に見えた。
「来年はコーチの彼女として遊びに来るからよろしくね!」
麗は好意をよせる後輩たちからもらった手に余る花束を抱えながら、じゃあねと手を振った。

「俺は気づいてたけどね!」

すぐ後ろで声がして、沙紀は1cmぐらい飛び上がったと思う。
振り向くと、南の変わらぬ優しい顔がそこにあった。
南と二人で話すのは、すごく久しぶりな気がする。
沙紀が雪村と付き合い始めたと聞いた南は静かに身を引いたのだ。
雪村の性格を知ってか知らずか、南はなるべく沙紀と二人で話すことを避けてきたのだ。

「今日が、たぶん最後だ。だからちょっとだけ話してもいいかな。」
璃子にごめんねと断ると、南にしては珍しく強引に沙紀の手を引っ張り校舎の中に消えていった。