突然のことに頭が追い付かずしばらく外を眺めていると、雪村が沙紀に気が付き何かを話している。
急いで窓を開けると、いつものひんやりとした雪村の声が聞こえた。


「起きてへーきなの?」

うれしい気持ちでいっぱいになった沙紀は、玄関に走り出す。
が。。。

よく考えたらパジャマのままだし、汗をかいて前髪ぐちゃぐちゃだし。。
これは・・・会える状態じゃない。
着替える??え?でも風邪ひいたって言ったのにパジャマじゃないのも変じゃない??
一瞬でいろんな考えがよぎったが、時間は限られている。
ひとまず部屋着に着替え、鏡で何となく髪を整えて玄関に向かう。
まだ少しクラクラするが、ドアを開け雪村の姿を見たら一気に熱が下がったように感じた。

「これ。差し入れ。」
そういって雪村が差し出したのは、イルミネーションを見つけた雑誌に載っていて、これまたどうしても一緒に行きたいとダダをこねた有名パティスリーのプリンの箱だった。
「うそ!なんで??買ってきてくれたの??」
お店までは電車で30分以上かかるし、何よりもすごく並んだはずだ。
そんなことをみじんも感じさせないポーカーフェイスで雪村はいう。
「・・・用事のついでだったし。」
絶対、嘘だ。
オープン時間を考えても、とんぼ返りだったに違いない。
感激のあまり言葉が出なかった沙紀をみて調子が悪いと判断したのか、雪村は「じゃ」と言って帰ろうとした。
「待って!一緒に食べよ?」


部屋の中を換気してベッドを整え、軽く掃除を・・・と慌てていると、廊下で待たせていた雪村がのぞいていた。
「動かないの。」
眉をひそめている雪村に、自然と体の動きが止まる。
「まだ熱あるんでしょ?」
雪村はすたすたと入ってくると、いつも座っている机の前に腰を掛け、プリンを取り出しスプーンの準備までしてくれたりする。
沙紀はあきらめて雪村の向かいに座った。
「いただきます」

沙紀が楽しみにしていただけあって、プリンは極上の味だった。
幸せそうにほおばる沙紀を、雪村は満足そうに見つめる。

「あ、そうだ。イルミネーションいけなくてごめんね・・。こんなタイミングで風邪ひいちゃうなんて、ほんと私バカ・・・。」
「いや別に。僕もともとそんな行きたくなかったし。」
がーーーーん。
確かに行きたがっていたのは沙紀だけだった。
こんな時は素直なのね。といじける沙紀をみて、雪村は吹き出す。
「また行けばいい。」

風邪をひいてこんなに幸せだったことは初めてだ、と思った。

「あのさ・・・そんな顔すると、困るんだけど。」
突然顔を背けた雪村を見ると、首まで真っ赤だ。
沙紀は何を言っているのかわからず、首をかしげる。

雪村はおもむろに沙紀に近づくと、沙紀を抱き寄せた。

「うつっちゃうよ・・・だめ。」
制止する沙紀を無視し続けられる雪村のキスに、徐々に熱がこもる。
ここまでは経験済みだった。
だが雪村の手が沙紀の服の中に滑り込んでくる。
寝ていたため下着をつけていなかった沙紀の胸に、雪村のひんやりした手が触れて包まれる。
反射的に押し戻そうとするが、本調子ではない沙紀の手は雪村の体に触れただけだった。
激しいキスと、続けられる愛撫。
頭の中がぼんやりしてきたとき、雪村の手が下腹部に伸びた。


「やだ!!」


思いの外大きな声が出て、雪村の手も止まった。
はっとした雪村は体を素早く起こし、小さな声でつぶやく。
「ごめん」

沙紀は気づいていた。
嫌じゃなかった。
もっと、自分のことを知ってほしかった。
でも・・・

「元気になったら・・・続き、したい。」
もはや熱なのか恥ずかしさなのかわからないが、自分の顔がタコよりも赤いのは確かだ。
なんて破廉恥なことを言ってしまったのか・・・。

今にも倒れそうな沙紀をよそに、食べ終わったプリンを片付けた雪村は立ち上がりドアに向かう。
そして振り向かずに早口で言い放って出て行った。
「楽しみにしてる。お大事に。」

部屋に残された沙紀の熱が、さっきより上がったのは言うまでもなかった。