バレーボールは中学で始めたので、今年で6年目。
セッターは難しいポジションだったけど、やりがいはあった。
もともと誰かを支えたりするのが性に合っているんだろう。一番目立つエーススパイカーもかっこいいけど、俺はこの位置に満足していた。
こんな性格だから、先生にも事あるごとに雑用を押し付けられる。
今回も春休み中に顧問から突然、入学式の手伝いを押し付けられた。なんでも人が足らないことにさっき気づいたんだとか。そんなのちゃんと考えろよ~とも思ったが、どんなことでも楽しむことを忘れないっていうのが俺のポリシー。本当は休みだったが、かわいい新1年生のためにも貴重な春休みを返上してやろうじゃないの!
入学式当日、校長先生の原稿を忘れたと慌てふためく顧問の代わりに職員室まで取りに行く役目を仰せつかった。
無事に原稿を見つけて体育館へと向かう途中、静かな廊下に新1年生の声が小さく響いている。
俺も2年前はドキドキしながら式を待ってたな~と懐かしく感じていたら、階段の上からパタパタと音がして女の子が現れた。
「あの!」
透明な声だ。
「職員室はどこですか?」
まだすこしあどけなさが残るが、その表情には芯の強さがにじみ出ている。
1年生だろうか?説明するには少し複雑な場所だったので、一緒についていくことにした。
「ありがとうございました!」
いまどき珍しいぐらい深くお辞儀をした後、顔いっぱいに笑った彼女の顔が目に焼き付いた。
彼女の名前を知ったのは、部活見学の時だった。
おとなしそうな女の子と二人、マネージャー希望と知ったときは少し驚いた。どちらかというと彼女は応援する側よりもされる側の人間のように感じていたからだ。
後で聞いた話では、中学の頃の怪我でプレイができなくなったという。そんな不幸はみじんも感じさせない仕事ぶりをみて、彼女に次第に惹かれてくのを感じた。
それに気が付いたのは6月に入ったころだった。
気が付くと彼女は1年の雪村を目で追っていた。
雪村は熱意をあらわにするタイプではなかったが、1年らしからぬ長身を買われてレギュラーになっていた。実際にセットアップをするときも、自分なりにいろいろ考えてプレイしていることがよくわかった。もともと頭がいいのだろう。
でもそれだけだ。
女子受けする話もできないし、むしろ陰キャといってもいい。
なぜ彼女は、雪村なのか。
それでも二人の距離が次第に近づいていくのを目の当たりにして、まずいと思った。
あと少しで引退、そうなると毎日彼女に会えなくなる。
焦った俺は大会直前、彼女に思いを伝えてみることにした。慎重に、彼女の負担にならないように。
その時、ちょうど雪村と彼女の間に何かがあったように見えた、そのちょっとした歪に付け込めるんじゃないかと思ったのだ。
争いごとが嫌いな俺としては結構頑張った方だ。
大会が終わって打ち上げの時、雪村と彼女の姿だけがないことに気づいた。
「おわったーーーーーーー!!!!」
カラオケのマイク越しに叫ぶと、後輩が「お疲れさまでした!!」とかわるがわる抱き着いてきた。
まぁそうね、部活も、終わった。
そしてどうせ抱き着いてくれるなら、女の子がいい!!
そう思いながら汗臭い後輩にもまれていると、親友で主将の西野が隣に座ってポンと肩をたたく。
「お前、頑張ったべ。すっぱりあきらめろ!」
3年間支えあった西野とともに、俺たちは「青春ってほろ苦いな~」と本気か冗談かよくわからない会話をした。