「なんなの?こういうの、やめてくれる?」
明らかに迷惑そうな顔をしている雪村を見て、初めて沙紀は恥ずかしさでいっぱいになった。
慌てて雪村の上から飛び起きると、背を向けて正座する。
「その・・・服もなんなの?」
沙紀の顔が真っ赤にあり、涙すら浮かんでくる。
沙紀は急いで荷物をまとめると、ぺこっと頭を下げて部屋を飛び出した。
後ろから雪村の声が聞こえた気がしたが、もう沙紀には聞こえていなかった。

雪村の家が見えなくなるまで走ってくると、沙紀は寒さを感じた。
わたし、バカみたい・・・。
雪村が自分のことを彼女として見てくれているのかを確かめたかっただけなのに・・・なぜこんなことをしてしまったんだろう。
ぽたぽたと落ちていく涙を拭こうとバッグを探っていると、中のスマホが振動しているのに気づく。
画面には「雪村冬真」と表示されていた。
散々迷ったが、深呼吸をして通話ボタンを押す。
「・・・はい」
「英語のノート忘れてる。明日テストだから必要でしょ?」
「ごめん、、取りに戻る。」
沙紀は来た道をもう一度戻りながら、どうふるまっていいのか悩んだ。


結局答えは出ないまま雪村の家についてしまい、そのままインターホンを押す。
「どうぞ」
雪村の声がいつもより冷たく感じるのは気のせいだろうか?
手足が動かしにくいのが寒さのせいなのか緊張のせいなのか、もう沙紀自身にもわからなかった。
ドアの向こう側には雪村が怖い顔で立っており、ノートを受け取ろうとした沙紀の手を強く引いた。
そしてようやく沙紀は、雪村にキスをされていることに気が付いた。

長いキスだった。
乱暴でただ唇を合わせるだけのキス。
唇が離れた時、雪村が静かに口を開く。
「僕がどれだけ・・・我慢してるか知ってる?僕だって男なんだけど。」
沙紀を支えていた雪村の手に再び力が入る。同時におなかに当たった何かから、雪村の「男」を感じて顔が赤くなる。
「家で二人になったり、柚井が隣に来たりするとやばいのに。必死でこらえてたのに、、今日の服装はなんなわけ?」
こわばっていると思った雪村の表情は、よく見ると恥ずかしさが混ざっているようだ。それでもしっかりと体を引き寄せられて、沙紀はなんて答えたらいいかわからなかった。
「だって・・・・不安だったの。手もつないでくれないし、キスもしてくれないし。私って何なのかなって・・・。」
「好きって、、、言ったよね!?」
なぜかキレ気味の雪村をみて、ついに吹き出してしまう沙紀。
「はぁぁぁぁぁ??なんでここで笑うわけ??」
さっきまで泣いていたのにすでにコロコロと笑っている沙紀をみて、呆れたようにふっと口元が緩む。
「そっちが望むならどこまでもしちゃうけど、いいの?」
「いやそれは・・・ゆっくりお願いしたいです。。」
薄暗い玄関の片隅がとても暖かく感じていた。