3年生が引退して1・2年生だけの練習に慣れてきたころ、沙紀は黄色に変わり始めたイチョウの葉を見ながらため息をついていた。
「どうしたの?元気ないね??」
璃子が沙紀を気遣う。


雪村と付き合い始めて3か月、今が一番楽しい時期であるはずなのに沙紀の表情はすぐれない。
雪村と沙紀は実際、順調に交際を進めているように見えた。
部活終わりには毎日ではないが一緒に帰ったりもしているし、たまに家に集まりテスト勉強もしているようである。
「・・・璃子って、透くんともう・・・・キスとかした??」
璃子の顔がみるみる赤くなっていく。
「そりゃ、、まぁ。でもまだ数回だよ!それに先と先がちゅって!ちゅってくっつくぐらいの!まだ浅いやつ!!!」
テンパりすぎてきかれてもないことまで口走っていたことに慌てる璃子だったが、沙紀の悩みは逆方向になるようだと気づく。
「沙紀・・・は?」
沙紀は再度大きなため息をつきながら体育館の壁に張り付く。
「何にもない。」
「え?」

雪村はキスどころかいまだに手さえつないで来ないのだ。
あまりに焦れた沙紀が下校中に手に触れようとした瞬間、雪村はさっと手を引いたのだという。
「あれは絶対気づいてた!!なんでだろう・・・もしかして私たち付き合ってないのかな??」
涙ぐみながら壁から床へと滑っていく沙紀はそのまま溶けてなくなってしまいそうだ。
「えっと・・・雪村くん、恥ずかしがりやなんじゃないかな?」
頑張ってフォローしたつもりが、逆効果のようだ。
「それは知ってる。でも彼女だよ?付き合ってるんだよ??男子高校生だよ???好きな女の子に触りたいとか思うのが普通なんじゃないの??」
落ち込んだ様子から反転して錯乱し始める沙紀を止めるすべはない。
「やっぱり私の魅力が足りないのかな?璃子みたいに女らしくないし、桃みたいに胸もないし・・・」
再び床に座り込む沙紀の後ろから透き通るような声が聞こえた。


「誘惑してみたら?」
 

見上げると、そこには女神がいた。
いや、引退したはずのマネージャー麗だ。
「麗せんぱーーい。。」
縋りつく沙紀の頭を優しくさすりながら、麗は小声で話し始める。
「雪村って草食系っぽいじゃない?たぶんタイミングが見つからないのよ。だからね・・・・・」

麗の話を赤くなったり青くなったりしながら聞いていた沙紀は、とうとう一世一代の決心を決めるのであった。