「適当に言っといて」
そう言い残すと雪村は、店から出て沙紀が走っていった方向に走り出した。
行先は全く分からない。
こんな面倒で無駄な作業は初めてだ。
でも、柚井を探したい。
探して、ちゃんと伝える。

カラオケ店では満足そうに店外を見つめる透を璃子が探しに来たところだった。
「どしたの?」
「いやぁ、雪村にも青春って来るんだな~~と感慨深いのである!」
「もしかして!!」
透と璃子は顔を見合わせてにんまりと笑った。

雪村は沙紀の行きそうなところを冷静に分析した。
この方角は家じゃないし学校もない。
泣いている状態でこの辺りに一人でいることはまずないと思う。


高速で考え続けた雪村は、沙紀が以前話していたことを思い出す。
「・・・あそこか?」

小さな川の小さな橋の下、以前沙紀はひどく疲れるとここにきて大好きな音楽を聴くと言っていた。
もしかしたら・・・そう思い覗いてみる。
すると、体育座りして小さくなった沙紀が膝に顔をうずめてイヤホンをしていた。

見つけた。

息を整えながらゆっくりと沙紀に近づく。
音楽を聴いているからか、雪村が近づいてきたことに気が付かない様子だ。
雪村はそっと沙紀の右隣に座ると、おもむろに沙紀のイヤホンの右側を自分の左耳に入れた。
びっくりして顔を上げた沙紀の目は真っ赤でまだうるんでいた。


「これ、僕も気に入ってる曲。」
影になったアスファルトの上は少しだけひんやりしていて、8月の終わりを感じる。
二人はしばらく同じ音楽を聴きながら河原に座っていた。
そういえば、初めて会ったときもこの音楽を聴いていた・・・。

雪村がイヤホンをそっと外し、沙紀の方に顔を向けた。
沙紀もそれに気づいて音楽を止める。

「ひどいことばかり言ってごめん。」
ぽつり、ぽつりと雪村がつぶやく。
「もともと、そんなに人が好きじゃないんだ。だから、一人でもいいと思ってた。」
「柚井に会って、世界がどんどん広がっていくのがわかったんだ。」
一生懸命話をしてくれているのがわかるから、沙紀は雪村の一言一言を聞き洩らさないよう耳を傾ける。
「柚井に対する気持ちに気づいて、怖くなった。生きてる世界が違うのに、うまくいくはずがないって。」
沙紀の目からまた涙があふれだす。いったいどれぐらい涙は出るのだろう?
雪村はポケットからきれいにたたまれたハンカチを出すと、そっと沙紀に渡し話を続ける。
「思ってもないことを言うたびに、どんどん自分が嫌になっていった。こんな自分よりも南先輩と一緒にいる方が絶対幸せだろうなって。でも・・・」
ハンカチを握りしめていた沙紀の手をぎゅっとつかむ雪村。
「やっぱり、好きなんだ。柚井が、好きだ。」
最後まで言い終わる前に、沙紀は雪村の胸に飛び込んでいた。