「仲いいんだね、南先輩と。バレーうまいし優しいし、彼氏にするならには最高なんじゃない?」
汗で全身びしょぬれの雪村だったが、表情だけは氷のように冷たい。
「南先輩とも出かけてるの?なんか青春って感じでいいね。」
いつもより饒舌な割にはとげのある言葉に、沙紀は戸惑いを隠せない。
こんな話がしたいわけじゃない。
「ま、僕には関係ないけど。」
体育館へ向かう後ろ姿を見つめることしかできない沙紀は、もうどうすればいいのかわからなくなっていた。
あの日、雪村と通じ合ったと思っていたのは幻だったのだろうか?
こみあげてはこぼれていく涙は、汗と混じって焼けるようなアスファルトの上に落ちて、消えていった。
体育館に戻った雪村に南がドリンクを手渡す。
「雪村ー、お前もちゃんと水分取っとけよー!」
それを手だけで制し床に座り込む雪村をみて、南は真剣な顔になった。
「お前さ・・・ほんとにそれでいいの?沙紀ちゃんお前のこと好きだと思うよ。」
思わず見上げると、見たこともない南の大人な顔に一瞬ひるんだ雪村だったが、すぐに吐き捨てるように言った。
「僕なんかより南先輩の方がふさわしいんじゃないですか?」
「僕なんか?お前さ!!・・・・・ま、いーや。じゃあ沙紀ちゃんは俺がもらいまーーす。部活中にちゅーしててもイラつくんじゃねーぞーー」
雪村がいい返そうとしたとき、コーチの合図が体育館に響いた。
練習再開だ。
部活が終わり、部員はパラパラと帰っていく。
疲れた体を引きずり、家でしっかりご飯を食べ、明日の練習に備える。
校門で璃子と別れた沙紀は、まだ熱が残る夜空を見上げる。
「送っていくよ」
振り向くと南がいつもの笑顔で手を振っていた。
最近は夜道が危ないからと、南は送ってくれることが多くなった。
以前は同じ方角の雪村と通った帰り道、あの時とは全く違って見える。
南は他愛もない話をふってくれるが、どうしても沙紀の頭に入ってこない。
好意を伝えてくれる南だからこそ、ちゃんとけじめをつけなければと感じ始めていた。
でも今は大会前の大事な時期、いつ言おうか・・・そんなことを考えているうちに分かれ道まで来てしまっていた。
「あの・・・」
話し始めた沙紀を遮り、南が口を開く。
「俺さ、こう見えて結構臆病なんだよね。だから・・・沙紀ちゃんがほんとにもうだめだって思えるまで結論は出さないでほしい。ごめんな。」
なんで謝られているんだろう、謝らなければならないのは私なのに。
また明日、と手を挙げて自転車にまたがると、南はあっという間に見えなくなってしまった。