あの日から沙紀は、雪村とうまく話すことができなくなっていた。
雪村の方からも話しかけてくることはなくなり、連絡事項の時すら目を合わせてくれない。
沙紀はわざと明るくふるまっていた。一人でいると泣いてしまいそうだった。
夏の大会が近づき、バレー部はより一層練習に励んでいた。いつもより暑い夏で、練習が終わり午後8時になってもまだ25度を超す日が続いていた。
「沙紀ちゃんとご飯食べてる?顔色悪いよ?」
校門をくぐりながら璃子が心配そうにのぞき込む。
もともと夏が苦手な沙紀だったが、ここ数日まともに食べられていない。それでもマネージャーになったからには選手をサポートしなければならない!という使命感でなんとか動いているというのが実情だった。
「大丈夫!体力は自信あるから!」
誰が見ても青い顔をしているにもかかわらず、これ以上心配させたくないと手に持っていたバッグを無理やり振り回す沙紀。するとバッグはその手からするりと飛んでいき・・・
「よっ!」
上手にキャッチしたのは後ろを歩いていた3年生の南先輩だった。
「何?トス練足りないって??きびしーなー沙紀ちゃん!」
沙紀は慌てて取りに戻ると深々と頭を下げた。
「すすすすすいません!!!」
そのとたん沙紀の体がぐらりと傾いた、
あ、ヤバイ・・・貧血・・・・・
生ぬるい土の感触の代わりに感じたのは温かいぬくもりだった。
「大丈夫??オレたぶん沙紀ちゃんと家の方向同じだから送ってくわ!」
ふわふわする頭の中で南の声が聞こえる。
「ちゃんとつかまっててね!」
南は後ろの座席に沙紀を乗せると、勢いよく自転車をこぎ始めた。
「わっっっ」
生ぬるいけど強い風が全身にあたり、少しずつ気分がよくなってくるのを感じる沙紀。
きもちいい。
何も言わずにものすごい速さで駆け抜ける南の背にちょこんとつかまっている間、沙紀の頭は久しぶりに空っぽになっていた。
家に着いた事にすこしがっかりしている自分に驚く。
「最近沙紀ちゃん調子悪そうだったもんね。」
そういってポンと手に載せてくれたのは、かわいいキャラクターが付いたゼリーだった。
「いや、このキャラクターは妹のだから!俺の趣味じゃないからね!」
焦る南をみて、沙紀はくすりと笑った。
「・・・やっと笑顔見れた。」
と、南の顔が真剣になる。
「あのさ、ずっと言おうと思ってたんだけど。俺、沙紀ちゃんが好きだ。雪村のこと好きなのは知ってる。でも俺なら、沙紀ちゃんにそんな顔はさせない。」
いつもは優しく、時々おどけてみんなを和ませてくれる南のこんな表情は初めてだった。
何も言えない沙紀ににっこり笑い、頭をポンポンしながら南は優しい声で続ける。
「考えといて。あと、ちゃんと食べて休むように!じゃ。」
南は自転車にまたがりあっという間に見えなくなってしまった。
残された沙紀の手にはぬるくなったゼリーが残されていた。