洗濯物事件があってから、沙紀はちょっと変だった。
授業中も時々ぼんやりしているし、部活中も一点を眺めていることが多くなった。

ある日の物理の授業で先生にあてられた沙紀は、あろうことが前日の授業で終わった問いの答えを発表してしまったのだ。

「あぁぁぁ、、咲良、、、助けて。。。」
沙紀は涙交じりの声で咲良にしがみつく。
「ごめーん、物理苦手なんだわ~」
沙紀は先ほどのペナルティとして、先生にありがたい課題をもらったのだ。下校までに提出、と言われたプリントには今日習ったばかりの内容の問題が4問もあった。
物理に苦手意識がある上に授業中上の空だった沙紀に、この問題が解けるとは到底思えない。
「桃と璃子は生物選択だから教えられるわけがないし、、あ!確か雪村って物理得意でなんじゃない??雪村ーーー!!」
咲良が窓際に座っている雪村に声をかけた。
「雪村って物理得意だよね?沙紀に教えてあげてくれない?」
ヘッドフォンを外しながら、こちらを軽蔑した(ようにみえる)目をする雪村の方に顔を向けられない沙紀。
「ぇえええ・・・でも、、、悪い。。」
「そんなこと言ってたら終わんないよ!早くきて!いいでしょ??雪村」
雪村は憮然としながらも意外な答えをした。
「・・・いいよ」


放課後、部活開始までは30分ある。
生徒たちがかなり減った教室で沙紀と雪村は向かい合っていた。
「で、どこがわかんないの?」
「どこ・・・とは??」
「は???」
怒った様子の雪村に見られて、恥ずかしいやら情けないやら、塵になって消えてしまいたいと思う沙紀だったが、わざわざ時間を取って協力してくれてる彼に申し訳ない。
「円運動ってなんでこっちに動くの?点がどんどん回っていくのにどうして角速度とか求められるの??」
正直に疑問を投げかけると、雪村はなるほどという顔で説明し始めた。
「このボールはここを回って・・・・・この点での角速度が・・・・・でこの答えを求めたいわけ。」

おそらく完全に理解しているのだろう、すらすらと解説を始める雪村の手元をみて沙紀も身を乗り出す。
「なるほど!じゃあね、このボールが反対を向いたときに・・・・」

まるで家庭教師みたいにマンツーマンで雪村に教えられた沙紀は、どうにか時間内にプリントを埋めることができた。
「雪村くん、ほんとにありがとう!!雪村くんは私の神だよ!!」
思わず手を取り喜ぶ沙紀に雪村は珍しくすこし動揺した様子で言った。
「は、早くしないと部活遅れるよ。。」
何度もお礼を言って、沙紀はプリントを振り回しながら職員室へ走っていった。

残された雪村は、張り詰めていた何かが切れたかのように机の上に突っ伏した。

「・・・何してくれるんだよ。。。」