初めて話したのは、教室でプリントを拾ってもらったときだ。

風に煽られてからかうように飛んでいくプリントにイラつきながら席を立とうとしたとき、拾って手渡してくれた彼女が柚井沙紀だった。

普段からあまり人と話すのは好きじゃない。他人と関わるのは面倒だし、だいたい話をしたところで本当に意味のある内容が何パーセントあるのだろうか?

こんな性格だから、中学の時はあまり友達もいなかった。
中学の時に何となく仲良くなった吉田透とは同じバレー部だったし、進む高校も一緒だったこともあり何となく一緒にいる。

誰とも仲良くなる気はない、そんな表情をいつもしていた僕に、あんなにも素直で温かな笑顔を向けてくれたあの子は誰だろうと思った。

入部の時に同じ体育館にいた時は、本当に驚いた。マイナーなバンドを好きだという共通点もあり、柄にもなく「運命なんじゃないか」とすら思ってしまった。

でもそんな期待はすぐにはじけ飛んだ。


彼女は、みんなに、優しい。


新しく入った部活でも、マネージャーの仕事をしっかり覚えながら部員とのコミュニケーションも怠らない。坊主の林先輩やキャプテンの西野先輩ともすっかり仲良しでよくいじられている。

クラスでも男女分け隔てなく優しく接している。

僕とは違う。

僕とは違う人種だ。


彼女との接点を極力避けていたある日、洗濯中に落としたであろうタオルを拾ったことがある。

彼女はいつもの、誰にでもするあの笑顔で僕に近づいてきて、そして、転びそうになった。

とっさに支えた彼女の体は頼りなく、そして柔らかだった。

同じ生き物なのに、なぜ男女でこんなに違うんだろうと思うぐらい、ふわふわでいい匂いがした。

僕は驚くほど自分が興奮しているのがわかった。

人として、男として、彼女に近づきたいと思った。


驚くほど俊敏に離れていく彼女の横顔に、僕の中の何かが目覚める予感がした。

いつもの笑顔ではなく恥ずかしさと戸惑いが混じった初めて見る顔だった。


僕は何事もなかったかのようにその場を離れた。

でも、この時僕は恋に落ちたんだ。