彼はいつも窓際でヘッドフォンをして、音楽を聴いているようだった。
短髪で驚くほど背が高く、大きな声なんて聞いたことがないぐらい冷静で大人びた表情。
見たところ友達であろう山本透といつもなんとなく一緒にいるが、どこか冷めたような、何かをあきらめているようなそんな顔をしている。
どんな顔で笑うのかな?
自分が時々無意識に目で追っていることに、沙紀はまだ気づいていない。
「明日身体測定だって~。早めにダイエットしとくんだったーー」
咲良ががっくりした様子で近づいてきた。
入学式で緊張する沙紀に初めて話しかけてきてくれた同じクラスの女の子だった。快活でボーイッシュな咲良はまるで以前からの友達であるかのように沙紀を扱い、今は咲良と同じ中学だった桃と璃子とも友達になった。
「咲良ぜんぜん太ってないじゃーん。私への嫌み??」150cmしかない桃はぽっちゃりしたほっぺをさらに膨らましている。「何言ってんの!桃はそのままで十分かわいいんだよ!」咲良が桃に覆いかぶさる。170cm近くある咲良に桃は完全に隠れてしまっていて、璃子と沙紀はくすくすと笑ってしまう。
その時、開いている窓から花びらが入ってきた。あ、と手のひらで捕まえようとした沙紀だがその後の強い風に花びらを見失ってしまう。そして花びらの代わりに一枚ののプリントが机から落ちた。
ーーーー彼の机だ。
少し緊張しながら、沙紀はプリントを拾うと彼に手渡す。
「・・・どうも。」彼はヘッドフォンを外すことなく無愛想にそういうと、そのまま目を閉じてしまった。
それだけの出来事のはずだった。
ところが沙紀の視線は彼の机の上にくぎ付けになった。
「これ!!!」
彼のスマホに映し出されてたタイトルに、沙紀は興奮して震えた。
これは・・・・まだまだマイナーだけど地元で3年も頑張ってようやく人気が出始めたバンド「soft wing」の新曲!
「雪村くん、soft wing好きなの??」
「え?・・・あぁ。まぁ。」
突然話しかけられて驚きを隠せない幸村だったが、そんなことお構いなしに沙紀はうっとりした表情で話し続ける。
「いいよねぇ、新曲。リリースされたときにすぐDLしちゃった!雪村くんはどの曲が一番好き??」
すこし考えてから雪村は答える。
「・・・悟り、かな。」
「わかる!!!私も大好き!サビの部分が泣けるよね~~」
突然始まった理解不能な会話を聞いていた咲良たちだったが、この後食べに行くアイスが待ち遠しくて声をかける。
「あの・・・お取込み中悪いんだけど、そろそろ行かない?」
はっと我に返る沙紀。
・・・絶対うるさい女だと思われた。。
「えと、、邪魔してごめんね。じゃ。」
ワタワタと荷物をまとめて早々に教室から出ていく沙紀の後ろ姿を雪村は目で追う。その目には少しだけ好奇心が混ざっていた。