「 光 」 | 0・・映画toほげほげ

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♪ ほげほげたらたらほげたらポン ほげほげたらたらほげたらピー ♪
★映画のほげほげ等、気まぐれ備忘録★

  " 光 "

 

監督 河瀨直美

出演 永瀬正敏

   水崎綾女

     神野三鈴

    樹木希林(声)

     早織

     大塚千弘

   藤竜也

 

 

男性の後ろ姿 ホールを進む 座席に数人の人影

壁沿いの通路に来て一歩一歩階段を降りてゆく

通路横の座席に腰をおろす

少し長めの髪 黒いジャケットを着た永瀬

イヤホンのコードを伸ばし耳に装着する

 (電子音声)テスト テスト テスト

徐々に真っ暗になる

 (電子音声)イヤホンの聞こえはいかがですか?

  ***

 (電子音声)このアナウンスは

  皆さんが今から ご利用になる

  イヤホンの調子を確認するための

  テストアナウンスです

  ***

 〔信号機から流れる誘導音〕

映像は真っ暗なまま

 (綾女の声)信号が青になる

映像が出る

 (綾女の声)脚立を担いだ男性が信号を渡る

女性がじっと見る目元

 (綾女の声)小学生の集団が 横断歩道を渡っている

見上げる目元

 (綾女の声)

近鉄奈良駅の看板

 (綾女の声)南都銀行の看板

 〔クラクション〕

きょとんとした顔で道路を見る女性 綾女

 〔クラクション〕

 (綾女)けげんそうな運転手

足早にその場を離れる

 

奈良駅の周辺 遠くに見える山 五重塔

駅前の道路には車の列 街路樹が色づいている

交差点の横断歩道を渡る綾女

薄手のコートにジーンズ姿

 

 *

会議室 光を放つプロジェクター

 (綾女)秋の早朝 森の向こうに穏やかな海辺

  瓦屋根の一軒家

声は映像を説明している

 (綾女)竜也の家

  白髪交じりで ひげを生やした男  竜也が

  洗濯物を畳んでいる

  肩までの黒髪 化粧っ気のない女性 三鈴が

  縁側から外を眺めている

マイクの前に綾女

 (綾女)三鈴 冷たい目で竜也を見る

眼鏡の女性が映像を見ずに座っている

 (綾女)三鈴の背中を見つめる竜也

ジャケット姿の女性がメモを取る

 (綾女)竜也の回想

スクリーンに海の映像が映っている

 (綾女)浜辺の砂像

スクリーン脇の机に4人

 (綾女)竜也と三鈴 縁側に座っている

永瀬がうつむき加減で座っている

 (綾女)竜也 手に持った赤ワインを一口 飲む

 

神野 三鈴を演じていた女性

 (神野)はい じゃあ まず ここまでにしょっか

明かりが着く

仏頂面の永瀬

眼鏡の女性 正子、明敏が

綾女の説明で分かり難かった箇所を指摘する

手元の原稿に赤いペンで描き入れる綾女

 

映写が再開される

 (綾女)海 分厚い雲の向こうに うっすらと見える太陽

耳を傾ける正子

 (綾女)三鈴 真っ白なワンピースを着て 砂浜に横たわっている

神野がペンを片手に見入る

 (綾女)竜也が三鈴を強く抱きしめ 悲しげな表情を浮かべている

 

明かりが着く

永瀬は不機嫌そうな顔

目を閉じた女性 早織

 (早織)伝わった感はあったんだけど

 (永瀬)押しつけがましいっことじゃ ないですか?

 (早織)ガイドを いっぱい入れてもらうと

  助かる分 間を感じたい時に 言葉が いっぱいで、、、

 (永瀬)はっきり言って

  今のままなら邪魔なだけです

ジャケット姿の千弘

 (千弘)永瀬さんは 他の皆さんと違って

  ちょっと 見えるっていう部分も あるわけですし

 (綾女)分かりました

  次回のモニター会までに

  押しつけがましい部分を

  再度 検証し

  永瀬さんの お邪魔に ならないようにいたします

 

 

開け放った窓

沈み始めた太陽が輝いている

窓辺に座る綾女

マグカップを受け取る

そばに座る神野

 (神野)永瀬さんの言葉

  しっかり向き合ったほうがいいと思う

  ガイドって あるだけで ありがたいって思っちゃうから

  何も言えなくなっちゃう人 多いんだよね

  映画ってさ

  誰かの人生と つながることじゃない?

  音声ガイドって そんな映画を

  観れるはずのない人とも つながっていくことかもしれない

明敏が微笑む

 (神野)音声ガイドってね  綾女ちゃん

  彼らの想像力を理解すること

  視覚障害者の人たちの想像力は相当なもんよ

窓の外を見る綾女

 

 

ペンをぷらぷらさせる手

 (綾女)うーん

キーを打ち込む

綾女の部屋

書き込みだらけの音声ガイド原稿

パソコンモニターに映像とエクセルに書いた原稿

綾女 目を閉じて考える

目を開け真剣な眼差しで見る

 〔電話の着信音〕

綾女 瞼をぎゅっと閉じる

 〔ファックスの作動音〕

ファックスから用紙が吐き出されて来る

綾女は肘をついた姿勢のまま 横目で見る

用紙には乱れ気味の文字がびっしり並ぶ

 綾女ちゃん、今週は帰ってきま

 すか。逢いたいです 母

ぼんやりする綾女

 

 〔車の走行音〕

山道を進んで行く 杉の木立 

梢の向こうに空が広がっている

水色の軽自動車がカーブを曲がり山道を上がって行く

車窓を流れる木々の風景

ハンドルを握る綾女の顔に光が当たる

暗い森を抜け開けた場所に出る

細い道が続く

道の先に一軒の日本家屋が建っている

 〔キーを回す音〕

 〔エンジン音が止まる〕

綾女は目を閉じる

 〔鳥や虫の鳴き声〕

楓の葉に蝉の抜け殻がついている

遠くに重なる山々

焚き火から白い煙が立ち上る

木に当たっていた陽が微かに陰る

車を降りる綾女

トタン壁の納屋を過ぎ母屋へ向かう

家に入り薄暗い土間を進む

 (綾女)晶紀さーん

 (晶紀)はい あっ 綾女ちゃん

格子柄の割烹着をきた晶紀

 (綾女)最近どうですか

 (晶紀)いい時は いいんだけど やっぱり 時たまね

  よく分からなくなる時はあるねぇ

  お父さんの失踪した日の記憶が

  すっかり抜け落ちてるから 余計に厄介で

  そろそろ施設のことも 考えたほうがいいかもしれないね

綾女は外に目をやる

土間の向こう 母が明るい陽射しを浴び 突っ立っている

 

壁に掛かった麦藁帽子 男性の浴衣

居間 長押の上に神棚 先祖の写真

デスクに電話と一体になったファックス機

縁側 並んで座る母と綾女の背中

綾女が母を見る

 (綾女)お母さんは幸せ?

 (康子)うん 綾女ちゃんが幸せやったら

 (綾女)ここにいると いろんな音が聞こえるね

目を閉じる綾女

 〔川のせせらぎや 遠くで響く音楽〕

 〔虫の羽音や鳥のさえずり〕

 (綾女)目 閉じると もっと聞こえるね

綾女は目を瞑る

 

布団で眠る母と綾女

綾女は母の静かな寝顔を見ている

体を起こす

手をゆっくりと母の鼻の前に翳す

 (康子の寝息)

綾女は安心した表情で横たわる

 

グレーのリュックサックを引き寄せる

使い込んだ皮の財布を出す綾女

開くと透明のポケットに男性の運転免許証

指でなぞる

小銭入れのボタンを外す

小銭を全て出し絨毯敷きの床に置く

札入れから紙幣を抜き出す

 (綾女)現金7223円 尾花座のチケット

  スーパー パケットのレシート

映画館のチケットとスーパーのレシート

 (綾女)弁当 396円 ペットボトル飲料 97円

  缶コーヒー185ミリ 64円

  しのはら整骨院 テレホンカード

丁寧に並べていく

 (綾女)こっとんのポイントカード

カード入れから写真を一枚取り出す

山の上に立つ父と幼い娘 夕日の逆光で顔は見えない

綾女は写真を顔に近づけてじっと見る

 

 

 〔キーボードを打つ音〕

 (電子音声の読み上げ)ヒートタイム アイエヌシー マルカッコ

打ち込まれた文字が読み上げられてゆく

プログラム言語を打つ手

iMacのモニターの前に座る永瀬の後ろ姿

黒い画面に白い拡大文字

デスクの上を手探りしiPhoneを取る

 (永瀬)設計課 池田課長に電話

 (電子音声)池田課長さんに電話をかけています

黒いブラインドの下がった部屋

デスクの明かりだけが着いている

 〔電話の呼出音〕

 (池田)はい 設計課です

 (永瀬)あっ 永瀬です お疲れさまです

  あの 先日の

  CPUボードの不具合の件 どうなったかなと思って

 (池田)ああ

  あれ よかったですよ 永瀬さんが早く気づいてくれて

  検証結果が午前中には送られてくると思います

 (永瀬)明日の午前中ですね

 (池田)今 朝の9時なんですよね

 (永瀬)え? 夜じゃないんだ

 

壁に沢山のモノクロ写真がピンナップされた部屋

ソファーとテーブル 大きな写真パネル

ブラインドを指で弾く永瀬

薄っすらと光が顔に当たり また暗くなる

 〔ブラインドを引き上げる音〕

ブラインドが上がりぱっと光が入る

永瀬は二眼レフのカメラ ローライフレックスを持つ

皮製のストラップを手に巻く

ピントフードを立てる

カメラを持ち上げ

ピントフードの真上に目を当ててファインダーを覗く

 (永瀬)いい天気ですね

 (iPhoneの電気音声)いいえ 今ははれていないと思います

永瀬 ゆっくりと顔を上げる

窓の外には薄曇りの空が広がっている

 

ハンガーに掛かった白いシャツを数えてゆく

シャツの隣には黒い上着が複数枚 下がっている

5番目のカーディアンをハンガーから外し袖を通す

 

郵便物に顔を近づけて確認する

大きめの封筒 差出人欄に目を近づけ脇に避ける

白い封筒を拡大読書機に置く

筆文字の表書き 黒字に白の拡大文字が画面に写し出される

裏返し 差出人を移す

印刷文字で男性と女性の名前

良かったら是非来てください と手書きされている

女性の名前に焦点を当てる 西原藍

払いのけようとして読書機が横転

 

 

公園 ブランコに座っている綾女

砂場

 (綾女)目の前から 消えてしまうものほど

  美しいのです

砂の表面を撫でる

綾女は砂の上にぺったり座っている・・・

 

 

 

   

 

 

 

   視覚障害者のための音声ガイド

 

   あるだけで ありがたいって思っちゃうから

   何も言えなくなっちゃう人 多いんだよね

 

     DVDでも

     音声ガイドがないものの方が多い

     洋画に限ればほぼない

 

   ブログを書く参考に たまに聞く

 

   確かに 分かりやすくなるが

   映画の雰囲気を変えてしまうことが多い

   全編を通して聞くことは まず無い

 

 

 

   駆け出し音声ガイド・ライターと

   徐々に視力を失ってゆくカメラマン

   共に悩む

 

 

    目の見える人は

    目の見えない人に

    何をどう伝えるか

 

    目の見えない人は

    目の見える人に

    何をどう伝えるか

 

 

 

 

 

2017年 日本映画 102分